連載:東京五輪世代、過去と今と可能性

無名だった原輝綺が日の丸を背負うまで 東京五輪世代、過去と今と可能性(5)

川端暁彦

代表に選ばれても「何で俺なんだろう」と思っていた

ついに日の丸を背負うようになった原だが、「何で俺なんだろう」と思っていたそう 【写真:アフロスポーツ】

 恵まれた身体能力を持っているが、読みがよくスマートにプレーするのでそこまで際立つわけではない。圧倒的なテクニックで魅せるという選手でもない。どちらかと言えば、地味なタイプである。中学でも高校でも、派手に活躍してオファーが殺到するような選手ではなかった。ただ、どちらの段階でも彼の前には2人の「目利き」が現われて、より高みを目指す道を選び取ることとなる。そして、無名選手はついに日の丸を背負うようになった。

――高3の夏、初めてU−19日本代表に選出されました。

 まず代表の活動があることを知りませんでした。「SBSカップ(U−19代表が参加する静岡の国際ユース大会)って何だ?」という感じでした。(夏のインターハイで)優勝して次の日からすぐに合宿だったんですが、バスで移動中に「(代表に)入ったよ」という連絡がありました。

 代表なんて頭になかったので、そこもまたハテナでしたね。僕のサッカー人生は「何で俺なんだろう」というのが結構あるので、「またこのパターンか」と。自分としては手応えはなく、(代表チームは)次はフランスとUAEへの遠征があると言われて、「俺はないだろう」と思っていたのに、また呼ばれました。

――当時、内山(篤)監督は「1人良い選手が見つかった」と言っていて、「原ですよね」と伝えたら「分かるか」とおっしゃっていました。

 自分の中では全然そんな感覚はなかったです。SBSがテストのような招集だったことは自分でも分かっていました。次の(遠征)は(テストではなく)ガチなメンバーがそろう。そんな中で呼ばれたのは、うれしさを感じるというより、やっぱり「何で俺なんだろう」という気持ちでした。

――昨年はそのフランスに加え、アルゼンチンなど世界レベルの相手も体感しましたね。

 フランス遠征で初めてコア(主力)メンバーに入って、いきなりめちゃくちゃすごい選手の集まったフランスとの試合に出て、自分は何もできなかった。「こんなに差があるのか!」と思いました。同い年、もしくは1歳しか変わらないのに「ここまで差が出るのは何なんだろう」と。

――感じたフランスとの差は何ですか?

 一番はフィジカル面です。強さや速さが格段に違っていました。ですが、懐の深さであったり球際だったり、ぎこちなさそうに見える選手も、いざ対面するとみんなうまい。フィジカルだけでなく、技術面でもフランスが圧倒的に上でした。

――U−20W杯ではそういった相手との対戦が続きます。

(欧州予選では)イタリアが2位で1位がフランスですよね。(イタリアとフランスは)そんなに差はないと思います。(昨年12月の)アルゼンチン遠征に行ったときは、(南米のチームに)かなりの衝撃を受けましたが、その南米予選の1位が(第2戦で対戦する)ウルグアイです。あのアルゼンチンより上なんて、一体どんなチームなんだろうと思います。

プレー次第では今後のサッカー人生が変わってくる

東京五輪に向けては「まずはチームでしっかり試合に出続けたい」という原(34) 【赤坂直人/スポーツナビ】

――ウルグアイの看板選手であるロドリゴ・ベンタンクールはユベントスへの加入が決まっています。

 まじですか! 逆に言えば、その選手とマッチアップしてつぶすことができれば、「あいつは誰だ?」となりますよね。試合に出ることができれば、プレー次第で今後のサッカー人生が変わってくると思っています。

――この大会を経て3年後、東京五輪のときに、どういう選手になっていたいですか?

 今はそんなに(明確なイメージは)ないですけれど、まずはチームでしっかり試合に出続けたい。いつも言っていますが、1つ1つ目の前の目標をクリアしていくというのが自分のスタイルだと思っています。3年後にこうなっていたいというのは、(イメージを持つことは)必要だと思いますが、(そういった考え方は)自分には合っていない。

 まずはしっかりこのチームで試合に出て、結果を残して、個人としてもチームとしても確かな成果を出して、1つずつステップアップしていきたい。まずは(U−20)W杯でしっかり戦って、目標を達成したい。そうすることで海外でプレーすることであったり、いろいろな可能性があると思っています。

 浮ついたところのない謙虚な言葉が並ぶが、一歩一歩と前進していく意思は誰にも負けない強いモノがある。熱いハートと冷静な頭脳を兼ね備えた新潟の新星が初めて臨む世界舞台で何を見せてくれるのか――。この大会を経て「2人の目利き」が彼の前に現われるような展開になったとしても、それは決してサプライズではないだろう。

原 輝綺(はら てるき)

【写真:川端暁彦】

1998年7月30日生まれ、埼玉県出身。178センチ、70キロ。AZ'86東京青梅から市立船橋高校に進学し、2016年のインターハイ優勝に貢献した。卒業後はアルビレックス新潟に加入。開幕戦でクラブ史上初の高卒ルーキースタメン出場を果たすと、その後はレギュラーに定着。第7節にはプロ初ゴールを奪い、さらにその評価を高めた。16年8月にU−19日本代表に初選出され、10月のAFC U−19選手権にも出場。ボランチとして、チームの核を担う存在になりつつある。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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