日本ハム・西川遥輝が“第2の開花” 逆転優勝に導いた北のリードオフマン

ベースボール・タイムズ

仲間からの刺激とコーチとの作業

昨年の不振から脱出し、見事に“第2の開花”と言うべき活躍を見せ、首脳陣からの信頼を得た 【写真は共同】

 なぜ6月を境に上昇カーブを描くことができたのか? そこにはある男の存在があったと推測する。岡大海である。

 ここ数年、日本ハムの若手外野手たちは、常に厳しい定位置争いを繰り広げてきた。レギュラーが決まっているのはセンターの陽岱鋼のみ。残り2枠を、西川と岡以外に、谷口雄也、杉谷拳士、近藤健介、石川慎吾、浅間大基など、個性、将来性ともに豊かな人材が争う形となっている。

 その中でも岡は抜群の身体能力による広い外野守備、そして元投手ならではの強肩とパンチ力のある右打者ということもあり、外野レギュラー争いの最右翼とされてきた。しかし、今季はオープン戦中のケガによる離脱を経験。悔し涙の3月をバネにして6月中旬に1軍合流すると、6月19日から7月11日にかけての15連勝中に4割の打率(14試合50打数20安打)を残した。

 そんな岡の活躍が刺激にならない訳はなかった。西川はその15連勝がスタートした翌日の6月20日の欠場を最後に、以降すべての試合に出場する中で、一発長打を捨て(今季最後の本塁打は6月12日)、徹底して出塁にこだわり、チームのために汗をかいた。

 同時にルーティンとなったのが城石憲之打撃コーチのとの“リセット作業”だった。今までは本格派の投手の翌日に球速の異なる投手が来ると打撃に“ズレ”が生じていたという。それを試合後に丁寧に“ニュートラル”にするのが城石コーチとのルーティン。「今年は必ず3割を残す」と約束したコーチとの二人三脚で、毎試合新鮮な状態で打席に入ることができるようになった。

懸命なプレーで手にした大きな宝

 数字だけではない。どことなく“スマート”、言い換えればそっけない印象だった試合後のコメントも、記録が途切れた試合後には「自分のことよりもチームの勝利」と熱い内容に変わった。

 今季最後の直接対決である9月21日、22日のソフトバンンクとの天王山(ヤフオクドーム)では、初戦の第1打席、ボテボテの内野ゴロの際に一塁へのヘッドスライディングを敢行。ケガ防止のためのチーム遵守事項の禁を解いてまで勝利への執念を見せた。また、第2戦の守備では、フィールドシートのフェンスをものともせずレフト線へ落ちそうな打球をダイビングで好捕。かつてのスマートさは消え、いわば泥臭いプレーで優勝を色濃くする2連勝に大きく貢献した。

 こうして、今季ここまで591回の打席に立ちながら、「併殺なし」という稀代のスピードスターは、盗塁王よりも尊い、チーム、ファン、首脳陣からの“信頼”というかけがえのない宝を手にした。それを物語るのが9月25日の楽天戦(札幌ドーム)だった。一打同点の場面、今季初対戦のミコライオに対し、大谷は真っ先に西川に教えを請うた。それに対し「素直な真っ直ぐはない」と助言した西川。大谷は、わずかに変化した初球ツーシームを迷いなく弾き返して貴重な同点タイムリーとなった。

 昨季、ファンの多くは全試合に出場し盗塁王を獲得、侍ジャパンにも選出された中島卓也を「最も成長した選手」に推した。しかし、今季はその筆頭候補が西川であることはもう間違いない。“第2の開花”の時を迎えた天性のリードオフマン、西川遥輝――。美酒に酔ったファンたちは、これから始まるポストシーズンでも、グラウンドを縦横無尽に駆け回る背番号7の姿を楽しみにしている。

(八幡淳/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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