国枝、最後まで戻らなかった試合勘 「出直したい」V3逃すも挑戦続く
「あらゆることに不安があった」
敗れたジェラール(左)と試合後に握手をかわす国枝。4年前とは異なり、失った試合勘は簡単には戻らなかった 【写真:伊藤真吾/アフロ】
「選手村を出た時から強風はチャンスだな、と思っていたんですよ」
荒れたコンディションに海外勢が手こずっても、国枝にはそれを味方につける強さがある。リオのセンターコートのサーフェスが重い、ということも、本来なら勝利を引き寄せる要因になったはずだ。
「それなのに、どちらかというと僕の方が風に影響されてしまった感じでした。(また)バックハンドだけでなくフォアも、両方とも迷いがありました」。国枝がこう振り返ったように、得意のバックハンドの威力も、精彩を欠いた。本来の姿とは違ったショットの精度、腕の振り切り、ボールへの自分の入り方。
「あらゆることに不安がありました。今大会では試合直後に練習を行って、なんとか感覚を取り戻そうと努力しましたが、最後まで戻らなかったですね」
対戦したベルギーのジェラールは、時速152キロものサービスを放って国枝のリターンを崩し、強烈なショットで追い打ちをかけた。国枝と対戦したジェラールは、8年前にトーナメントを上りつめていった国枝の姿に重なる。若いが、しっかりした技術のベースを武器に緻密なプレーを展開する。
「若い選手ですが、経験を積んできたから、わずかなミスショットも見逃してくれませんでしたね。彼は、きっと彼自身のゲームをしたのではないでしょうか。素晴らしいの一言に尽きます」
2020年へ続く世界への再挑戦
国枝がダブルスで金メダルを獲得したアテネ大会の頃、ダブルスの試合時間は長かった。どちらかのチームがミスをするまでラリーが続くからだ。しかし、今は違う。果敢に前に出て攻撃を仕掛け、試合の展開が数倍も早くなっている。車いすテニスが、ますます一般のテニスに近づいていることを感じさせられる。
国枝はこうした若手の台頭を、むしろ歓迎している。その中で、まだまだ負けたくない、と感じている自分がいる限り、世界への挑戦は続いていく。
「痛みを抱えながら必死で取り組んできた中で、コーチやドクター、そして家族など多くの方々の支えがあって、この舞台に立てている。そのことに、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。そして、コンディショニングやトレーニングも一から見直して、もう一度出直したい」
その先に、2020年の東京パラリンピックを迎える。
王者の先に道はない。道は国枝が作るのだ。