五輪で金、韓国女子ゴルフが強い訳 イ・ボミらが語る朴仁妃の勝因

キム・ミョンウ

日韓で異なる、代表選手のプライド

こちらも朴と同年代のキム・ハヌル(右)は、韓国選手特有のモチベーションがあると言う 【Getty Images】

 現在、日本女子ツアー賞金ランキング3位のキム・ハヌルも「彼女のメンタルが導いた勝利」と話す。キムも朴と同年代で、ジュニアのころから競ってきた一人だ。

 キム・ハヌルは少し考えたあと、こう切り出した。

「仁妃は米メジャーを7度も制しています。それだけ重要な試合に強いという証拠ですし、五輪に出場した選手のなかでは年齢が上で経験も豊富。大舞台慣れしていることは大きいでしょう。自分の実力を出し切れる選手が仁妃だと思うんです。五輪に出場した選手はみんな実力のある人たち。そのなかでどれだけ力を発揮するのかが大切なのですが、大事な試合に対するモチベーションが高いから、結果を残すことができるのだと思います」

 キム・ハヌルはもう一つ、要因を挙げる。

「ヘッドコーチを務めた朴セリオンニ(=お姉さん)が、4人の代表選手を一つにまとめたこともすごく影響していると思います。選手の宿で韓国料理の朝食を毎朝作って体調管理に気を配っていたと聞きましたし、技術的なアドバイスも支えになったと思います」

 現在38歳の朴セリは、韓国女子ゴルフ界のレジェンドでもあり国民的英雄だ。米ツアー参戦1年目の98年、全米女子オープンを20歳9カ月の米メジャー史上最年少(当時)で制し、同年の全米女子プロゴルフ選手権でも優勝。当時、通貨危機に陥っていた韓国において、朴の快挙で多くの国民が勇気付けられたという。そんな彼女がヘッドコーチとして帯同したのだから、選手にとってどれだけ力強い存在だったのかは理解できるだろう。

 さらにキム・ハヌルが興味深い話をしてくれた。

「私たち韓国人の特徴と言えるかどうか分かりませんが、代表選手としてのプライドを持って戦っていたということです。太極旗を胸に掲げて試合に出場すれば、それこそ気持ちの高ぶりも違います。国を代表して戦うという感情は、他国とは少し違うのかもしれません。私も代表選手として出場すれば、同じ気持ちになったでしょう」

 日本は“国を背負う”、韓国は“国を胸に秘める”。この表現が適切かは分からないが、そのようなニュアンスで受け止めていいかもしれない。

国ぐるみで育む強靭なメンタル

 韓国のジュニアゴルファーは、国家代表(ナショナルチーム)を目指してプレーする。代表になればトップレベルのコーチから技術習得や知識を得ることができ、メンタル強化のカリキュラムもある。そして、冬には無償で参加できる厳しい長期合宿もあり、多くの国際大会にも出場できる。国家代表に選出されることはプロの世界での活躍が保証されたも同然で、そこに代表選手としての誇りも育まれる。ジュニア育成の伝統が、五輪という大舞台でも結果を残せる土台になっているというわけだ。

 イ・ボミが語る。

「仁妃はジュニアのころからの友達ですけれど、尊敬しているプレーヤーの一人。それこそ、彼女は韓国の宝であり英雄。今回の金メダルはこれからも忘れられない出来事として刻まれていくと思います」

 韓国人選手のメンタルの強さは、個人の能力によるものだけではない。同国女子ゴルフ界に脈々と受け継がれる、伝統のようなものが背景にあるのだろう。

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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