拝啓、日本サッカー協会様 東京に向けA代表と五輪監督を兼任に
監督兼任の5つのメリット
02年W杯に向け、A代表監督と五輪代表監督は過去唯一兼任となり、トルシエ監督(左から3人目)が式を執った 【写真:川窪隆一/アフロスポーツ】
地元開催の2002年W杯に向けた過程で、A代表監督と五輪代表監督は過去唯一兼任となった。フィリップ・トルシエ監督は五輪組を意図的にA代表へ「昇格」させながらチーム作りを進め、本大会では年長のA代表選手をOA枠で組み込んで臨み、その五輪チームを一つのベースとしながらW杯へ臨んでいった。
そのメリットは5つある。
1つはA代表と五輪代表の戦術が完全に共通となるため、A代表の選手がOAとして加わってもこの点で戸惑う心配がなくなること。この効果は双方向で、五輪年代の選手がA代表に引き上げられた際にも違和感なくプレーできるようになる。必然的に五輪世代の選手がA代表で活躍するチャンスも広がるだろう。
2つ目は、A代表と五輪代表の利益相反が起きなくなること。2人の監督がいれば、2人ともベストメンバーを呼びたいのは当然で、A代表監督にしてみれば大事な選手が五輪代表で負傷してもらっては困ると思うのも当然。必然的に五輪代表の人選にブレーキを踏むようになる。今年のトゥーロン国際大会では、五輪代表の選手が大会途中でA代表に呼ばれるという現象も起きた。これはヴァイッド・ハリルホジッチ監督の問題ではなく(彼が自分のチームのベストを追求するのは当然だ)、もっと構造的な問題だった。兼任監督ならば、本人の中で調整すればいい。
3つ目は、OAの選考それ自体への影響だ。現状では、W杯予選を控える状況の中でA代表監督が五輪代表への主力選手供給に消極的なのは仕方ないところ。だが、自分の首の懸かった大会となれば話も違う。A代表監督へのアピールにもなるとなれば選手側の参加意欲も高まるし、3つしかないこの枠の選考でベストに近い人選ができる可能性が高まる。
4つ目は、五輪という真剣勝負をA代表監督が経験することそのものだ。アルベルト・ザッケローニや日本のことをよく知っていたジーコですら、W杯という舞台で日本人選手の精神状態がどう変化するのかを本大会になって初めて認識したという“故事”もある。W杯の前に世界大会を監督が踏んでおくことは、その後のW杯にも必ずつながる。
そして最後の5つ目として、五輪への準備としてA代表の試合を使えるということである。A代表の国際親善試合を実質五輪代表で戦うといった施策も可能になる。メンバー23人中17人を五輪組、残る6人をOA候補の選手で戦うといった中で、両者をなじませつつ、選考も行える。当然、五輪レベル以上のレベルの相手と戦うことで経験を積めるし、それが五輪世代の選手のブレークスルーにつながる可能性もある。ここで「国際Aマッチ」を経験することで世代交代への種まき効果が期待できる。
デメリットもあるが逆転の発想が必要
リオ五輪チームは予選を通じて大きな成長幅を得て、本大会で勝ち点を挙げるまでに成長した 【Getty Images】
とはいえ、東京五輪は「予選」という真剣勝負がない大会だ。このリオ五輪チームが予選を通じて大きな成長幅を得たことを思い出しても、致命的なデメリットにもなり得る要素である。それをメリットとして転換するには、A代表監督と五輪代表監督の兼任しかないのではないか。
日本サッカー協会は東京五輪で「男女金メダル」を目標として掲げている。それを普通の取り組みで果たそうということこそ、無理がある。逆転の発想だが、過去の日本で前例があり、世界各国でも例のある施策であり、決して根拠のない発想ではないと確信している。東京五輪はA代表監督が指揮を執るべきだ。