スウェーデン代表が目指す新しい形 堅守からポゼッション重視の戦術に

鈴木肇

エリクソン監督が理解するメンタルの重要性

かつて、うつ病を患ったエリクソン監督。自らの経験からもメンタルの重要性を理解している 【Getty Images】

 エリクソン監督は、かつて人生のどん底を経験した。うつ病だ。1990年代末、当時率いていたクラブチームとの契約を更新できず、私生活でも問題が起きるなどネガティブなことが同時に起こったことが主な原因だった。睡眠薬がなければ眠れない日々が続くと、ある日ストックホルムに向かう電車の中で目の前が突然揺れるという、これまでに体験したことのない感覚に襲われた。すぐに電車を降りて何とか自力で自宅に戻ったが、勝手に身体が震えて涙が溢れてきた。「このまま死ぬのか」と感じたという。

 サッカーから離れざるを得なくなったエリクソン監督は、うつ病と診断されてからしばらくの間は寝室から台所に向かうことさえ勇気が必要だった。テレビを見ている最中に、突然声を上げて大泣きすることもあったという。そんなエリクソン監督が約2年間という時間をかけて、うつ病を克服できた要因が、今日でも続けているメンタルトレーニングだった。

 メンタルトレーニングを担当した人物の名は、ラーシュ・エリック・ウーネストール。この分野では世界的に名の知られた存在で、今や海外のスポーツ界では数多く活躍している「メンタルトレーニングコーチ」という名を初めて付けたと言われている。ちなみにウーネストール氏は、U−21欧州選手権でスウェーデン代表チームのメンタルトレーニングを担当し、優勝に貢献した。この分野の第一人者のトレーニングを受けたエリクソン監督は、スポーツにおけるメンタルの重要性を理解する。

日本との対戦で見られるのは今までと逆の構図?

「耐えて勝つサッカー」と「ボールを支配するサッカー」。日本との対戦では従来と逆の構図が見られるかもしれない 【Getty Images】

 U−21欧州選手権優勝メンバーによるエリクソン監督に対する評価を読むと、この指揮官がいかに選手のメンタルを大事にしているかが分かる。左サイドバックのレギュラーとしてプレーしたルドヴィグ・アウグスティンソンは「ホーカン(・エリクソン監督)はチームをひとつにまとめる能力に優れている。そして、選手との対話を大事にしている」とコメント。センターバックのフィリップ・ヘランデルは「選手の話をとてもよく聞いてくれる」と話した。

 五輪開幕前、50人以上が招集を辞退した五輪代表のことを「何というジョークだ」「この代表チームは偽者だ」などと揶揄(やゆ)する声もあった。だが、選手のコメントやグループリーグの戦いぶりをみると、「心理学者」エリクソン監督のもとで自信を得たチームは伸び伸びとプレーしているように見える。

「耐えて勝つサッカー」と「ボールを支配するサッカー」。従来のイメージであれば前者がスウェーデンで後者が日本なのだろうが、11日の試合では逆の構図が見られるかもしれない。

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著者プロフィール

1978年生まれ。埼玉県出身。1994年米国W杯で3位入賞したスウェーデン代表に興味を持ち、2002年日韓W杯ではデンマーク代表の虜になり、スカンジナビアのサッカーに目覚める。好きな選手はイェスペア・グロンケア。自身のブログ(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/swe1707/)でスカンジナビアのサッカー情報を配信中。

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