強力・広島打線を支える3人のコーチ “神様”と“凡人”をつなぐ“通訳”
選手たちを育てた豊富な早出練習
自らを「通訳」と自称し、選手たちの兄貴分としても慕われる東出コーチ(右) 【写真=BBM】
「緒方(孝市)監督もそうだし琢朗さんも、神様みたいな人なんだよ。もちろん分かりやすく言ってくれているんだけど、俺たち凡人には分かりにくい感覚がある。それを伝えるのが俺と迎の仕事かな」
石井コーチの指導を、角度を変えて、別の場所からもアプローチする。1366安打も打っていれば、そうではなさそうだが“凡人”が指導に厚みを出している。 そして何より緒方監督が「ずっと感覚が似ていると思っていた」と話すように、指揮官と石井、東出の両打撃コーチ、迎祐一郎打撃コーチ補佐の打撃理論が一致していることが大きい。ベンチでの助言にも食い違いがなく、だからこそ、好不調の見極めも素早いのだ。
圧倒的な練習量もある。広島はホームゲームで早出練習を欠かさない。通常練習よりおよそ1時間も前から、2カ所でフリー打撃が行われている。1カ所はマシン打撃、そしてもう1カ所に、東出コーチと、もう1人の“通訳”迎コーチ補佐が立つ。年齢が選手と近い2人は兄貴分的存在だ。打撃投手を務め、変化球を交えて選手と対戦しながらアドバイスを送る。時には迎コーチ補佐がその日の対戦相手の投球フォームをマネるなど、雰囲気はとにかく明るい。一躍スターとなった鈴木誠也も、足がかりを作った下水流昂も、この早出練習からきっかけを作っていった。
就任から変わらない観点
首脳陣最年少、35歳の迎コーチ補佐。時にはチームを笑わせるなど、ムードメーカーも果たす 【写真=BBM】
「打てないときにどうするか――」
象徴的だったのは98年以来18年ぶりの9連勝を飾った6月26日の阪神戦(マツダ)。チームは序盤に阪神先発・岩貞祐太に苦しめられた。8回までに放った安打は新井貴浩のソロ本塁打の1本だけだった。結局9回に攻略してサヨナラ勝ちするのだが、石井コーチは試合後に開口一番、こう言った。
「確かに8回まで1安打だったけど、2点取っているでしょう。ヒットの数で戦っているわけではない。もちろん投手が踏ん張ってくれているんだけど、試合にしていることも忘れないでほしい」
この試合、5回に四球を足がかりに岩貞へ足でプレッシャーを掛け、田中広輔が犠飛を放って1点を奪った。形はどうあれ、次につないでいく打撃が徹底されているから奪えた点だった。派手ではない場面にこそ、強力打線の神髄がある。
要所で行われる円陣では、身を乗り出して身ぶり手ぶりで指示。狙い球や気をつけるべきポイントを的確に伝える。好機で打席に向かう前の選手にも言葉を掛ける。
「練習のつもりでいけよ」「絶対に投手のほうがプレッシャーがかかっているからな」
心を近づける神様と、寄り添って熱心に汗を流す通訳。そして平等な目で見守る指揮官。ビッグレッドマシンガンがそうである理由は、ここにある。そして今日も、いつもと変わらず早出練習が行われる。「神ってる」広島の快進撃は、止まりそうにない。