みずしな孝之に聞く野球4コマの過去未来 カネシゲタカシの『ぷぷぷぷプロ野球』
野球4コマ界の苦悩
当時の野球四コマ雑誌。表紙を見るだけでその頃の野球界の思い出がよみがえる! 【写真提供:みずしな孝之さん】
――それはすごい! でも、いまではこういう野球4コマ雑誌そのものがなくなっちゃいましたね(「まんがスポーツ」は94年に休刊。『まんがパロ野球ニュース』は98年に『スポコミ』に改称されたのち99年に休刊。『まんがくらぶオリジナル』へとリニューアルされる)。
「そうですね。描きたくても発表媒体がない。権利関係がいろいろうるさくなったりして、どの出版社も面倒くさくてやらなくなってしまいました」
――ああ、なるほど。野球人気の低下だけが原因ってわけでもないんですね。
「あと、ネット時代になってから、ネタ消費のスピードが速くなってしまいましたね」
これもまた野球4コマが隆盛を失った原因のひとつだと、みずしなさんは分析します。
たしかにネット時代の昨今は、プロ野球界のさまざまなニュースが瞬時ににツイッターや2ちゃんねる等で拡散され、あっという間に消費されてしまいます。それらを4コマ漫画に描いたとしても、雑誌に掲載される頃にはすっかり賞味期限切れ。これでは苦戦するのは当然かもしれません。
野球4コマが生き残るためには?
みずしなさんの「ササキ様」と、カネシゲの「ベイスたん」がコラボレーション 【カネシゲタカシ】
「やはり生き抜くための鍵は“キャラクターを立てる”ことでしょうね。例えばこの選手とこの選手は仲がいいとか、逆にケンカしたことあるとか、そういう事実を膨らませてキャラクターを立ててしまうんです」
――なるほど。勝手にキャラクターを立てて、ストーリー仕立てにする……。そういえば『ササキ様に願いを』でも、いろんな選手が極端なキャラクターで描かれていましたね。
「そうそう、僕はちょっとしたエピソードをものすごく膨らませるんです。例えば谷繁元信さん(当時横浜)なんかは、僕の漫画のなかで“ものすごいアホ”に描かれているんですけど……。それはなぜかっていうと、当時なにかで読んだ遠藤一彦さん(元横浜大洋)のインタビューのなかで『谷繁はなかなかサインを覚えてくれないんだよなぁ』という一文があって、そこからなんですね」
――え! 「サインが覚えられない」って話を、いつしか「自分の名前が漢字で書けない」までのアホキャラに発展させちゃったんですか(笑)。ご本人に怒られたりしませんでした?
「会ったことないです。怖い。まさか監督をされるとはね(笑)。あと、いまベイスターズでコーチをされている万永貴司さんが168センチと小柄だったんですが、それを僕の漫画では“168ミリ”って設定にして描いてました。そしたら読者の方から抗議の手紙が来たんです。『こんな選手がいるわけない、これは差別だ』って(場内爆笑)」
会場には、その選手時代の万永のユニフォーム持参でご来場くださった方もおられました。みずしなさんの漫画がきっかけでベイスターズファンになったという方も本当に多いと聞きます。野球4コマはまだまだ可能性を秘めた、捨て去られるには惜しいジャンルだと言えるでしょう。
いまのベイスターズを漫画にするなら?
イベントを終えて。「ろくろ回します」(みずしなさん) 【カネシゲタカシ】
有名なハマの番長の自撮りネタもふまえて語ってくださったみずしなさん。最後にこうおっしゃいます。
「谷繁監督が就任されたときに、お祝いの気持ちで4コマを描いてツイッターにあげたら、すごく反響があったのを覚えています。雑誌はなくなってしまったけれどネットではまだできるので、今後も機会があればやってみたいなと(場内拍手)」
僕もみずしなさんと同じ漫画家として、ネット時代の野球4コマの可能性をこれからも探っていきたいと思います。