松田、立石ら敗れし実力者の思い 競泳日本選手権、それぞれの戦い

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代表逃すも立石「最高の試合だった」

北島康介(右)の背中を追ってきた立石諒。2大会連続の五輪はならなかったが、レース後にはすっきりした表情を見せた 【奥井隆史】

 その一方で、26歳の立石はリオの地を踏むことすら許されなかった。ロンドン五輪では200メートル平泳ぎで北島を破り、銅メダルを獲得。13年と15年の世界選手権にも日本代表として出場した。

 しかし今大会はなかなか調子が上がってこなかった。自身のイメージと体の動きが合ってこない。100メートルは北島の後塵を拝し3位(1分00秒36)に終わった。200メートルも準決勝をスイムオフ(同じタイムを記録した選手同士が次のラウンドへの進出を懸けて再度競うこと)で勝ち上がるなど、薄氷を踏む戦いが続いた。

 迎えた決勝。第8レーンで泳いだ立石は一時は3位にまで浮上した。だが、終盤に失速し北島に次ぐ6位(2分10秒98)でレースを終えた。北島に憧れ、北島の背中をずっと追ってきた立石。ロンドン五輪で一度はその先輩を上回ったが、今大会は再び遅れを取った。それでも立石はすっきりした表情で取材エリアに現れた。

「全力で泳ぎ切りました。タイムは4年前に比べて話にならないですけど、精いっぱい泳げた五輪選考会だと思いますし、いろいろな人に支えられて、今までの水泳人生を送れたと感じたので、最高の試合だったと思います」

 ロンドン五輪後は半年ほど水泳から離れた。メダルを取ったことにも満足していた。それなりに楽しく過ごしていたが、何か張り合いがないと感じた。そして気づいたのは「自分はやっぱり水泳をやっているのが性に合うんだ」ということ。14年夏には右ひじの手術にも踏み切った。

「五輪が終わってからの3年間は、進退のことや手術もあったりでうまくいかないことも多かったですけど、去年の世界選手権が終わってからは、コーチと二人三脚で最高の練習ができたと思っています。五輪には行けなかったけど、やり切ったので悔いはないです」

 立石は笑顔でそう語ったあと、足早に取材エリアから去っていった。

まさかの予選敗退を喫した山口

まさかの予選落ちとなった山口観弘。世界記録を持ちながらも、五輪には届かなかった 【写真:アフロスポーツ】

「五輪のメダル」という実績を誇る松田、立石とは違い、21歳の山口はそもそもその舞台に立ったことがない。しかし、山口は200メートル平泳ぎにおける「世界記録保持者」という肩書きを持っている。2分7秒01というタイムは3年半以上、誰にも破られていない。

 そんな山口が、同種目で準決勝にすら進めなかったのは驚きを与えた。高校3年生時の12年に世界記録を出して以降、プレッシャーもあり本来の泳ぎを見失った山口は、タイムをみるみる落としていった。13年の世界選手権には出場したものの、それ以降は国際舞台から遠ざかる。ここ3年間は2分10秒を切ったことすらなかった。

 今大会は100メートルで決勝(1分00秒88の7位)に残り、復活の気配をうかがわせていた。山口自身も「調子は悪くない」と200メートルに期待を寄せていたが、前述のとおり予期せぬ結果に終わった。

「アップのときとは違って、あまり良い感覚ではなかったんですけど、まさかここまで悪い(2分13秒11の全体19位)とは思いませんでした。4年前の選考会は3位で派遣標準記録も切っていましたけど、今は準決勝にも残れないレベルなので、話せることは何もないし、終わってすぐなので気持ちの整理がついていない状態です」

 世界記録を出して以降、それに見合った選手となるためにもがき続けた。しかし、その気持ちは空回りし、苦悩を深めた。原因も分からない。暗中模索が続いたが、そんな厳しい状況に陥っても水泳を辞めようと思ったことはないという。

「練習もタイムが出ないこともすごくつらかったんですけど、仲間と一緒に五輪を目指せたことは楽しかったです。僕自身、水泳はすごく好きなので、嫌いになるまでやりたいと思っています。ただ来年からは社会人なので、学生とは違い結果を出さないとやっていけない世界に足を踏み入れる。今の状態が続けば、僕がいくらやりたいと言ってもできないかもしれない。それでもとにかくチャレンジしていきたいと思っています」

 五輪に行きたいという気持ちは皆同じ。多くの選手が出場する中でその権利を勝ち取れるのはほんの一握りしかいない。ただ、思うような結果を出せなかった選手たちがこれまで積み重ねてきた努力は決して無駄なものではないだろう。大事なのはこの経験をどう生かしていくか。今後はそれが問われていくことになる。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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