落選から1年…結実した田中智美の思い 故障ギリギリの努力で難レース制す

加藤康博

山下監督も称える田中の努力

北京世界選手権の代表落選から1年、山下監督(左)と「誰もが納得する強さ」を目指し強化した結果が実を結んだ 【写真は共同】

 田中と言えば、14年の横浜国際で優勝するも、昨年の北京世界選手権の代表に選出されず、物議を醸したことが記憶に新しい。しかし、そのショックを引きずることなく、この大会に向けて始動できたと第一生命の山下佐知子監督は振り返る。

「選考に関して納得できない思いもありましたが、そこで腐っても仕方がない。誰もが納得する強さを身につけるしかないと考えました。レース感と度胸はもともと持っていたので、それに伴うスピードとスタミナを目指すという方針で強化を進めてきました」

 成果は目に見える形で現れた。今季前半はトラックで次々と自己ベストを更新。9月には練習の一環としてベルリンマラソンにも出場し、2時間28分00秒で走った。12月末からは約70日にも及ぶ海外合宿を敢行。1月の大阪国際マラソンで福士が2時間22分17秒のタイムを出したが、設定記録の突破を過剰に意識することもなかった。

「そこに近づく取り組みは必要だと思いましたが、本人の体を無視して練習はできません。むしろどんなに悪くても2時間25分で走れる体を目指しました。それでも足を痛めたり、内臓疲労の症状が出たりしましたので紙一重だったと思います。よく頑張ってくれました」

 山下監督は愛弟子の努力を称えた。

東京五輪に向けて若い選手が台頭

22歳の清田真央(写真)、23歳の桑原彩ら次世代の選手たちも好走した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 日本人2位に入った小原は2度目のマラソンで2時間23分20秒。「あと一歩。自分の力が足りなかった」とレース後は悔し涙を見せた。マラソンでの代表選出の可能性はほぼ消滅したが、終盤に前に出て引っ張り続けた強さは次のレースへ期待を抱かせるものだった。今後は1万メートルでリオ五輪を目指すことになる。

 また、今回は若い選手の台頭が見られた大会った。22歳の清田真央(スズキ浜松アスリートクラブ)が2時間24分32秒で日本人3位。23歳の桑原彩(積水化学)が2時間25分09秒で同5位とともに初マラソンで上位に食い込んだ。マラソン3戦目の21歳、岩出玲亜(ノーリツ)も自己ベストを大きく更新する2時間24分32秒で同4位。20年東京五輪に向けて明るい材料と言えるだろう。

田中、マラソン代表は「今回はもう決まった」

 選考に関していえば、昨夏の北京世界選手権で7位入賞の伊藤舞(大塚製薬)がすでに内定済み。そして選考レースでただひとり設定記録を破った福士は事実上、決まったことになる。残り1枠はさいたま国際マラソンを2時間28分43秒で日本人トップの2位に入った吉田香織(ランナーズパルス)と田中の争いになるが、タイムで5分以上の差があることを考えても、田中の選出が濃厚だ。17日に行われる日本陸連の理事会で正式に代表が決定する。

 この日のレース後は「今回はもう決まったと思っています」と自信を見せる田中。山下監督も「晴れやかな気持ちで発表を待てるのでは?」との問いかけに、満面の笑顔でうなずいて見せた。

 1年計画で取り組んできた田中のリオへの挑戦は、最高の結果で幕を閉じた。

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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