「ラグビーを変えた」パナソニックがV3 戦略面で上回り、東芝との激闘を制す

斉藤健仁

ラストプレーで東芝の逆転ゴールが外れる

決まれば逆転のゴールキック直前に、成功を祈る東芝ベンチ 【斉藤健仁】

 残り20分を切ったが、手負いのオオカミも牙を剥く。SOを森田佳寿からWTBで先発していた廣瀬俊朗に代えて、WTBにニコラス・クラスカを投入した冨岡監督の采配がずばり的中する。28分、連続攻撃から、廣瀬の内返しのパスにクラスカが抜け出して27対21と6点差に迫る。

 そのまま時計は経過、パナソニックはボールキープする作戦を貫いていたが、残り4秒。パナソニックのFL劉永男を、東芝のCTB増田慶介、リチャード・カフイの2人で抱え込んでモールを形成し、見事にターンオーバーに成功。ラストプレーは東芝の自陣10m、右スクラムからの攻撃だった。

 東芝はカフイが、前に詰めてきた相手のピーターセンをターンしてかわして、ステインにパス。ステインが大きくゲインして、ゴール前に迫る。続く攻撃でカフイは、オープンサイドにキックし、バウンドしたボールを途中出場の7人制日本代表候補のWTB豊島翔平が見事にキャッチし、そのまま右中間に飛び込んでトライ! 27対26と1点差となる。

 優勝の行方は、東芝・ステインの右足にゆだねられた。タッチラインから5mの場所から蹴られた放物線はポスト左にそれていき、ノーサイド。パナソニックフィフティーンは両手を突き上げたり、泣き崩れたり、そして互いに抱き合ったりと、3連覇を達成した喜びを爆発させた。「リクシル杯」のMVPは、3試合でDG1本も含めて25本のキックを100%成功させたパナソニックのパーカーが選出された。

「ラグビーのすべての要素が詰まっていた」

ロビー・ディーンズ監督(右)は「東芝も素晴らしい戦いを見せた」と賛辞を送った 【斉藤健仁】

 いつもは冷静なパナソニックのロビー・ディーンズ監督も、少し興奮した様子を見せて、こうファイナルの感想を口にした。「予想した通りの戦いになりました。日本の素晴らしいラグビーシーズンを締めくくるのにふさわしい決勝だったと思います。まさにラグビーのすべての要素が詰まっていた。セットプレーとブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)でFWがしのぎを削り、キック合戦は素晴らしかった。東芝も最後まで我々を追い詰めた素晴らしい戦いを見せました。3連覇できたことはうれしく思います」

 惜しくも敗れた東芝の冨岡監督は「日本ラグビーが大きく変わった年の大一番にふさわしい戦いだった。パナソニックが素晴らしかった」と勝者を称えつつ、ロスタイムのトライに関して「ちょっとストーリーとしては弱い。つないで真ん中にトライを挙げていれば勝っていた。必然ではない取り方だったかな。そこに壁はある。力の差があった」と唇をかみしめた。ただ、「積み重ねた時間は優勝しても申し分ない準備をしてくれた。東芝の歴史は終わりではない。また強いチームにチャレンジしていきたい」と来季を見据えた。

満員の観客にパナソニック・田中は涙

優勝が決まって喜びを爆発させるパナソニックの選手たち 【斉藤健仁】

 ワールドカップの熱がまだ残る中、昨年11月に開幕したトップリーグは、その余韻もあり、過去13シーズンで最多の49万1715人が来場した。開幕戦こそ満員にならなかったがファイナルは満員御礼だった。「しんどかったけど、充実していた。これだけたくさんの方に応援していただくシーンを夢に描いていた。夢がかなって最高です!」とパナソニックの田中は涙を流した。

 試合は予想通り、トップリーグ史上に残る名勝負となった。パナソニックはほかの15チームより、ピッチに立った選手それぞれが、今、何をしなければいけないかをわかっていたと思う。最後のトライのシーンにも数人の選手がしっかり戻り、ゴールキックのシーンでも3人ほどがプレッシャーに走っている。激闘続きのトップリーグの中で、「青き王者」は唯一無敗でシーズンを駆け抜けた。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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