リオ目指す“タックル王子”の奮闘 女子の陰で苦しむ日本の男子レスリング

布施鋼治

全ては男子レスリング復興のために

男子レスリングの双肩を担う“タックル王子” 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 3月のアジア予選まであと3カ月、男子レスリングは悪循環の連鎖を断ち切ることができるのか。具体的な強化策はすでに両強化委員長の頭に中にある。「どんな状況に置かれても確実にポイントを取る。そのためには技の精度を上げていかなければいけない。ヘタな鉄砲をバンバン撃つより、取り切る技術をしっかりと覚えた方がいい。そして、しっかりと守れるようにいろいろなシミュレーション練習を積ませたい」(和田)

 西口は生活の中での最優先権をレスリングにしなければいけないと力説した。

「いまの世代はレスリングもそうだけど、生活も大切というタイプが多い。だったらレスリングが一番大切なんだというところから教えないと。グレコは大晦日から1月8日まで正月返上で合宿をします。これだけやっているんだから勝たないとバカだろう。勝たなければ何のためにやっているんだというところまで持っていきたい」

 そうした指導陣の士気は選手たちにも十分に伝わっているのだろう。高谷は世界選手権での反省を踏まえ、今大会では得意のタックルにつなげるための組み手を新たなテクニックとして取り入れ、試合でも使うようになったと話す。

「本当にちょっとしたことなんですけど、相手と組む時には必ず内から組むように心がけました。それで、(決勝で対戦した)嶋田大育選手(青森県協会)は彼の得意技でもあるタックルに入ることができなかったんだと思います」

 それに加え、ステップにも工夫が施されていた。

「世界選手権では僕が前に出たところで逆にタックルに入られるというパターンだった。企業秘密なのであまり言いたくないけど、そのために今回はわざと一歩下がる戦術をとりました。『下がる=悪い』という考えではダメ。一歩下がって、相手が出てきたところを押さえる。ちょっとした駆け引きなんですけど、世界のレスリングの流れはつねに変化していますからね」

 タックル王子の笑顔の先に、男子復興はあるのか。

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著者プロフィール

1963年7月25日、札幌市出身。得意分野は格闘技。中でもアマチュアレスリング、ムエタイ(キックボクシング)、MMAへの造詣が深い。取材対象に対してはヒット・アンド・アウェイを繰り返す手法で、学生時代から執筆活動を続けている。Numberでは'90年代半ばからSCORE CARDを連載中。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他の著書に「東京12チャンネル運動部の情熱」(集英社)、「格闘技絶対王者列伝」(宝島社)などがある。

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