名手・四位が語る天皇賞・秋の“色気” 「今年は違う」ディサイファ

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四位が気付いたディサイファの変化

2走前の札幌記念は今までにない強気な競馬で勝ち切った(撮影:高橋正和) 【netkeiba.com】

 今年初戦のAJCCこそ5着に敗れたものの、その後は中日新聞杯1着、エプソムC3着、札幌記念1着、そして前走の毎日王冠が2着。中団から馬場の真ん中を切り裂くように伸びた中日新聞杯から一変、札幌記念では2番手から押し切るなどレースぶりは多彩で、いまやその自在性は武器といってもいいだろう。

「中日新聞杯も確かに強かったけど、札幌記念を今までにない強気の競馬で勝てたことが大きいね。本当に頼もしくなったし、何より馬が若い。6歳っていう感じが全然しない」

 札幌記念の最終追い切りでは、四位自らが騎乗し、2カ月半ぶりの実戦となるパートナーの感触を確かめた。そこで四位は、ディサイファの“ある変化”に気付いたという。

「札幌記念の調教のときにすごく暴れて、きつめに叱ったんだけど、全然言うことを利いてくれなかった。以前なら、ちょっと怒るとシュンとしてたくせに、最近はもう反撃されるからね(笑)。毎日王冠の馬場入りのときも、後ろにいたヴァンセンヌを思い切り蹴ろうとしたり(苦笑)。もちろん、それは良くないことだけど、群れをなす動物の本能として考えると、自信が付いてボスになりたがっているのかもしれないね。あとは、体質が強くなったことで、今“すごく動ける体”なんだと思う。それが成績にもつながってきてるんだと思います」

 6歳にして、まさにピークを迎えた感のあるディサイファ。「厩舎サイドが大事に大事に使ってきたことが大きい」と、四位は何度も繰り返す。

「最初から、牧場にとっても小島先生にとっても期待の1頭で、デビュー当初はユタカさんが乗っていたあたり、何より期待の大きさの現れだよね。ユタカさんも気にしてくださっているようで、この前、『強くなったなぁ』って。なんかすごくうれしかったですね。
 小島先生には、先生が騎手として現役の頃からお付き合いをさせていただき、調教師になられてからもずっとお世話になっていて。今も関東に行ったときには必ずといっていいほど乗せてくださるし、ブルーリッジリバーやストーミーカフェでは大きな舞台でチャンスもいただいたけど、あと少しのところでGIには手が届かなかった。先生もあと少しで定年。ここで恩返しができたら最高だよね」

 ちなみに、小島太には「いつも怒られている」という四位。そういった意味でも、今の四位にとっては貴重な存在だ。

「私生活のことから競馬のことまで、いつも小言をいただいています(笑)。そうだなぁ……、父親が亡くなった今となっては、“お父さん”みたいな存在かもしれない。年齢的に良くも悪くも怒られることが少なくなった今、本当にありがたい存在ですね」

 いわゆる“師弟”とはまた違う、特別な信頼関係にある小島と四位。いい意味で、遠慮のない関係であり、だからこそ“ディサイファ”という作品を、根気よく作り上げることができたのかもしれない。

アグネスデジタルとディープスカイ

2001年天皇賞・秋、四位はアグネスデジタルでテイエムオペラオーを鮮やかに差し切った(撮影:下野雄規) 【netkeiba.com】

 さて、四位にとって天皇賞(秋)といえば、2001年にアグネスデジタルで一度制している舞台。直線は、ポツンと1頭だけで大外を強襲し、“並んだら抜かせない”というオペラオーの武器を完全に封じ込んだあたり、思わず“技アリ一本!”と膝を打ちたくなる、大胆かつ鮮やかな騎乗だった。

「いや、あのレースはね、“フワァ〜っと乗ったら勝っちゃった”というのが正直な印象。自分自身、ビックリしたからね。それより強烈に覚えているのが、ディープスカイの天皇賞。ウオッカとダイワスカーレットに次ぐ人気で(3強の1頭)、強い馬が揃った多頭数。どうやったらあの馬たちを負かせるか、ものすごくいろんなことを考えた。その結果が、タイム差なしの3着だからね。あそこまでいったら勝ちたかった……。
 それに、ウオッカとダイワスカーレットによる歴史に残る激闘として取り上げられることが多いけど、ディープスカイも勝ち負けに加わってるんだけど、みたいな(笑)。すぐ後ろにいたのに、全然取り上げてもらえなくて、それもちょっと悔しいなと。あのレースを語るときは、少しでいいからディープスカイもイジってほしいです(笑)」

アグネスデジタル以上に強烈な印象として残っているのが、ディープスカイ(左から3頭目・白帽)で3着に敗れた08年(撮影:下野雄規) 【netkeiba.com】

 最後に、「あの2頭はね、絶対デビュー前に性転換手術してるよ(笑)」なんて言いながら、ユーモアを交えて思い出を語ってくれた四位。しかし、その語り口には、強烈な悔しさがにじむ。今年も、ウオッカやダイワスカーレットほど抜けた存在はいないとはいえ、群雄割拠の多頭数。今からさぞや作戦を練っているのかと思いきや、それについてはベテランらしいこんな答えが返ってきた。

「馬にもよるけど、GIで型にハメてもろくなことがないから。枠順はどこかなぁとか、勝ったら何を買おうかなぁとか(笑)、そういうことは考えるけど、レースについてはあくまで臨機応変に。そう思えるのは、ひとつひとつ弱点を克服してきた今のディサイファなら、馬の間も割れるし、外からも伸びてこられる自信があるから。どんな競馬もできるというのは、GIでは何よりの武器だからね」

「相当な勝算がありそうですね」と話を振ると、「もう十分、色気を持ってます」とキッパリ。続けて、「こんな気持ちでGIに向かうのは久しぶりだな……」と、感慨深げにつぶやいた。そこには、誰もが認める絶対的な騎乗技術を持ちながら、キンシャサノキセキで制した2010年の高松宮記念以来、GIタイトルから遠ざかっているという現実がある。

「正直、現状について、焦りや葛藤はありませんか?」──最後に四位の本音が聞きたかった。

「ジタバタしてもしょうがないことはわかってるから、常に気持ちはフラットです。あのね、勝ち負けの世界でいちいち一喜一憂していたらもたないよ(笑)。こういう商売は、歯を食いしばって耐えなければいけない時期もあるからね。正直、藤田くんの引退は、自分としても将来を考えさせられる出来事だったし、実際、調教師に転身するというビジョンもある。ただね、いい馬に出会うと、そういうことすべて忘れちゃうんだよね(笑)」

「こんなにワクワクするGIは久しぶり」

四位の男泣きは見られるのか(撮影:高橋正和) 【netkeiba.com】

 いい馬と出会うと、すべてを忘れてしまう──いかにも四位らしいこの一言に、すべてが集約されていると思った。現実的に、引退や調教師への転身などについて聞かれる機会が増えたというが、確かなことは、それは今ではないということ。あるいは、ディサイファの存在が、四位をそこから遠ざけたのかもしれない。

「天皇賞を勝ったら、泣くかもしれない(笑)。いや、本当に。抜けた馬がいないぶん、みんな色気を持って乗ってくるだろうから激しいレースになると思うけど、今のディサイファなら、どんな競馬でもできるからね。こんなにワクワクするのは本当に久しぶり。勝てたら最高だよね」

 名手が十分な手応えを持って挑む、第152回天皇賞(秋)。ここまで積み上げてきたすべてを発揮するときがきた。はたして四位の男泣きは見られるのか──期待を胸に、そのときを待ちたい。

(了・文中敬称略)

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