万全な状態で臨めなかった鈴木と高橋 日本競歩陣に必要な強さと綿密な戦略

折山淑美

万全でなかった高橋 課題克服できなかった藤澤

持ちタイムでは3番目だった高橋(左)も万全な状態でなく、藤澤(右)も最後の課題をクリアできなかった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 また持ちタイムの1時間18分03秒は今季トップリスト4位で、出場選手中では3番目の記録を持ってレースに臨んだ高橋英輝(富士通)も、序盤は先頭集団で歩いていたが、急ぎ過ぎて体の上下動が激しく乱れたフォームだった。その結果、“ロス・オブ・コンタクト(どちらの足も地面から離れてしまったペナルティ)”の警告カードを1枚出された。

「万全とは言えない中でスタートラインに立ってしまったことがまずかった。脚の動きがバラバラになってしまった」というように、自分の歩きができず。結局、前半に無理をしたツケが後半に出てしまい、終盤には大失速して1時間28分30秒で47位という結果になった。

 そんな中で唯一、まずまずといえるレースをしたのが藤澤勇(ALSOK)だった。「2月の日本選手権で失格して以来、1キロ4分ペースできれいに歩くことを主にして練習をしてきたので、あまり質の高いスピード練習はできていなかった」と話す彼がターゲットにしたのは、1キロ4分ペースで行き、ゴールタイムを1時間20分30秒くらいにまとめることだった。

 19キロ手前まではほぼその通りの歩きができ、1時間21分37秒で8位になったオーストラリアのダン・バード・スミスが見える位置に付け、リオ五輪内定となる8位入賞ラインも見えていた。

 しかし課題だったラスト1キロをまとめられず1時間21分51秒で13位にとどまった。

しぶとさと強さを見せたロペス

優勝したスペインのロペスのような強さが、夏の過酷なレースには必要となる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 直射日光がさして気温が上がり、サバイバル戦の様相を呈した今回のレース。最後に迫力十分なデッドヒートを繰り広げたのは、ロンドン五輪銅メダルの王鎮(中国)と、13年世界選手権3位のミゲル・アンヘル・ロペス(スペイン)だった。

 先手を取ったのは13キロ手前から1キロを3分49秒、3分50秒とペースアップして飛び出した王だったが、ロペスが追い上げる集団の中で力を残し、終盤勝負に徹するうまい歩きをした。

 15キロ過ぎに単独2位になってからは、後続を引き離しながらも歩型違反で警告カードを2枚もらっていてこれ以上冒険ができない王をジワジワと追い詰めた。そして17キロ手前で王に追いつくと、その後も逃げようとする相手を冷静に観察し、18.5キロ過ぎにスパートをかけて振り切ったのだ。

 王鎮のベストが1時間17分36秒に対し、ロペスのこれまでの自己ベストは1時間19分21秒。彼はこの暑さの中で、自己ベストを7秒更新する強さを見せた。

 日本代表の今村コーチは「結果を見れば、日本勢には速さはあるが、強さはないということ。それを克服するには、世界のレースの経験や、本人のさまざまなことに対する対応力も必要だと思う」と言う。

 ロペスの今回の優勝は、ハイレベルな記録を持ってその優位性で押し通すような中国やロシア勢とは違う、ヨーロッパ勢のしぶとさや勝負強さを象徴するような勝利だった。

 そんな勝ち方から何を学ぶのか。記録では世界をリードするまでになった日本勢にも、これからは、夏の大会でどう戦うかという綿密な戦略も必要なのだろう。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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