山下佐知子監督が女子マラソン復活へ提言 低迷期の要因とレーススタイルの変化
5年後を見据えた目標の設定を
11年の世界選手権から世界のレーススタイルがガラッと変わった。スパート合戦に備えた尾崎は18位と沈み、山下監督も「戦略ミスだった」と反省する 【写真:ロイター/アフロ】
「09年の世界選手権(ドイツ・ベルリン)ではうちの尾崎好美が銀メダルを取りましたが、あの時は集団で淡々と進んで、最後に残った3人がスパート合戦で勝負しました。それもあったのでテグの世界選手権に向けては、尾崎にスパート練習をさせました。
けれども、この大会ではケニア勢が急に台頭してきて、後半ではなく、最初は遅くて中盤からバーンと(ペースを)上げて勝負を仕掛けてきました。だからそれは私の戦略ミスだと反省し、(12年の)ロンドン五輪は尾崎と一緒に走る2選手の監督とも相談して、最初から2時間24〜25分のゴールタイムから換算したペースで、淡々とレースを作る作戦を試みたんです。でも結局は重友さんの調子も悪かったり、尾崎もそこまで良くなかったりと、25キロまでしか持たなかったんです。
ただ13年の世界選手権(ロシア・モスクワ)では、イタリアのバレリア・ストラーネオ選手が最初から主導権を取って、ペースを作って走り切って2位になりました。あの時は、前半と後半のハーフの差が直近の世界大会では一番小さかったんですよね。日本人選手が目指すとしたらそこになると思うんです」
日本陸上競技連盟は今年の世界選手権へ向けて、冬の女子マラソンでの選考レースによる陸連設定記録を2時間22分30秒とした。しかし今回の選手選考では、レースの展開に関する詳細な記述はなく、騒動の一因となってしまった。
もし本番の平均ペースでの勝負を意識するなら、最初から2時間22分30秒を目指すペースで押していくレースをした選手を最も評価すると明確にしておけば良かった。そうすれば選手やコーチたちも、それができるための練習をするしかなくなるからだ。
5年後の東京五輪でメダルを狙うとするなら、蒸し暑い中でも2時間25分台のペースで押し切ることを目標にするとか、冬なら2時間22分30秒というのを明確な目標にする取り組みを始めてもいいのではないかと山下監督は話す。
日本として戦略と方向性を明確にする
ナショナルチームのあり方、選考レースのあり方に課題はあるが、まずは日本代表として世界と戦うための戦略と方向性を明確にすることが必要不可欠だ 【スポーツナビ】
「生身の体は消耗品でもありますから、試合が遠い選手は休みたかったり、近い選手は違う調整をしたいというのはあります。だから一緒に同じ練習をするというのではなく、例えばナショナルチームに入れば、年に2回は詳細な血液検査を受けることができて足りないサプリメントを選手に提示してくれるとか、JISS(国立スポーツ科学センター)へ行けばバイオメカニズムの測定もできて動きについてのアドバイスやトレーニングメニュー案を提示してくれるというようなことがあってもいいですね。そのデータを共有できるようになれば、次の世代へもつながると思います。
また合宿では練習よりミーティングなどを重視し、世界大会での戦略の確認やそのための練習方法などを話し合うことで、それぞれの選手間のライバル意識を高めたり、チームとしての結束力を養ったりできるとも思いますね」
代表選考方法に関しては、最良はレースの一本化だと山下監督は言う。緊張感が高い中での一発選考にした方が、世界で戦うという意味では良いと思うと話す。それを実現するためには各大会への根回しも必要だろう。
「長い目で見た時には、(五輪と五輪の間の)それまでの3〜4年間で2時間25〜28分以内を出した人のみが選考対象になるようにした緊張感のあるレースにすれば、もっともっと注目度も上がり、選手たちの励みにもなるかと思います」
世界と戦うための戦略や方向性を明確にし、それを選手選考でも徹底させること。それによって選手やコーチの意識を高めることは、チームとして戦うという方針を打ち出した日本マラソン界にとっては、必要不可欠なことでもあるだろう。