豪州・WSWに渡った2人の日本人 高萩と田中に求められる“二面作戦”

タカ植松

加入直後から存在感を発揮

田中は右SBのレギュラーポジションを獲得。鹿島戦も先発が濃厚だ 【Getty Images】

 そんなファンの期待に、まずは高萩がデビュー戦で名刺代わりのゴールで応える。1日、田中とともにアウェーでのAリーグ第15節メルボルン・シティー戦に先発した高萩は、本人が「ラッキーなゴールだった」と謙遜する直接FKによるゴールで自らのデビュー戦を演出。右足で放ったFKが、うまく相手DFの間をすり抜けて、直接ゴールに吸い込まれると、駆け寄ったチームメートに囲まれて祝福を受ける。その後、田中と2人で「どちらかが決めたら、何か日本らしいことをやろうと決めていた」という“四股(しこ)を2回踏んで立ち会い”の相撲パフォーマンスを披露、相手サポーターのブーイングを浴びた。加入後の高萩は、4試合中3試合にトップ下で先発出場して十分な存在感を発揮。今後、他の選手との連携が高まり、本人が「合流前はオフだったのでまだ100%じゃない」と語るフィットネス・レベルが万全になれば、今以上の活躍を見せてくれるものと期待したい。

 一方の田中も合流後すぐにその実力を認められ、右SBのレギュラーポジションを獲得。アジアカップ中断明けから3試合連続でのフル出場を果たした。直近となる21日の第18節アデレード・ユナイテッド戦は、それまで3戦にフル出場ということもあり、過密日程を考慮してのベンチ外となった。これで、大事なACL初戦の先発の座はほぼ確定。今後も間違いなくチームの主力として活躍していくに違いない。

過密日程に悩まされ国内リーグでは不調

 WSWは、昨年のACLでアジアクラブ王者の栄冠に輝き、世界を驚かせた。その一方で、ACLの日程と重複する形で昨年10月に始まっていた今季のAリーグでは、完全に勝ちに見放されて最下位という苦しいシーズンを送っている。快進撃を続けたACL、その後モロッコで開催されたクラブワールドカップと併せてかなりの過密日程に悩まされたとはいえども、開幕から14戦目まで未勝利という低調は、クラブ発足以来の2シーズンでいずれも優勝争いを演じたチームにしてみれば、まったくの想定外だろう。シーズンのほぼ3分の2を消化した時点で、勝ち点8(16試合)という成績。首位のパース・グローリーは18試合を消化しているものの、勝ち点差27という絶望的な大差がついてしまった。これだけ離されると残り11試合での首位逆転は、ほぼ不可能だ。

 そうなるとWSWの現実的な目標は、レギュラーシーズンの6位以内に与えられるファイナル・シリーズの出場権争いに何とか食い込むことにシフトする。現在6位のブリスベン・ロアーとの勝ち点差は13。こちらも厳しいが充分に達成可能な目標となる。加入当初は、ACLのみの契約という発表だった2人だが、クラブが1月の移籍期間中に外国人枠選手を整理したことで、共にAリーグでプレー可能なフル契約に切り替えられた。ということは、当然ながらクラブは2人にAリーグとACLのいずれでも最大限の貢献を見せることを期待している。そんな自らの置かれた状況は、彼らも十分に承知しているだろう。

真価を問われる「シドニー・ダービー」

 今後、WSWは2連覇の懸かるACLのスタートを無難に切り、Aリーグでは確実に勝ち点を積み上げて追い上げるという“二面作戦”が求められる。そんなAリーグとACLの両睨みという状況下で、今後かなり日程がタイトに、厳しくなることですら、経験豊富な2人は「チームメートとのコンビネーションを高められる」とポジティブに捉えているから頼もしい。

 WSWは、25日の鹿島戦後にとんぼ返りで帰国。28日にホームでシドニーFCとの「シドニー・ダービー」に臨む。かつて、このシドニー・ダービーを何度となく体験した小野をして「このホームでの(シドニー・)ダービーの雰囲気は格別」と言わしめた大舞台で、高萩洋次郎、田中裕介という2人の侍フットボーラ−はその真価を問われることになる。強敵シドニーFCとの大一番で、2人の四股を踏む相撲パフォーマンスが見られれば、Aリーグ随一と称される熱いサポーターで満員に膨れ上がった本拠地パーテック・スタジアムは大いに沸く。そして、そのゴールこそWSWの反転攻勢の狼煙(のろし)となるに違いない。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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