上村愛子、冷めることないモーグル愛 ソチ五輪から1年経った今を語る
昨年の4月に引退。その後はメディアに出演する機会も増えている 【スポーツナビ】
上村に現在の生活で感じること、そして未来について聞いてみた。
モーグルのことばかりを考える日々
まだ慣れていないですね。選手をやっていた時は目標がしっかり定まっていたので、トレーニングもそうですし、食事とか休みの取り方とかも、全部スキーシーズンにつながるように過ごして、1つのことだけを考えて毎日生活していました。ですから、合わせなきゃいけない瞬間が今のほうが多いように感じます。私がエンジン全開の時って、今までは冬だけだったんですよね(笑)。今はお仕事の度に、やらないといけないレベルが高いので、素直に「大変だな」と思います。
――そういう仕事にやりがいも感じていますか?
ありがたいことにスキーに携わることが多いので、いろいろな仕事をさせていただきながら、自分が表に出ることによって、自分のしてきたスポーツの楽しさや素晴らしさを世の中に広めていくことができればいいのかなと。やりがいを感じながら仕事も頑張っていこうと思っています。
――テレビの解説だけでなく、指導者のような立場でモーグルに関わることは考えていますか?
今年はお仕事で会場に行かせていただくことが多いと思うんですよね。でも、初めて外から見るシーズンなので、みんなに何かを言えるわけではないと思います。ただ、今の日本チームのレベルは高いけど、なかなか結果が出ていなくて、何かを変えないといけないと思っていると思います。そういう部分を今年はシーズンを通して自分の中で感じて、全日本のコーチたちと連絡を取り合って、思ったことを伝えてみようかなとは思います。
ただ、そういう肩書きをつけるのは、「コーチになってほしい」というような要請がない限りは、あんまり自分が出しゃばるところではないかなとも思っています。
――今年はメディアでの活動を通して、いろいろな知識を身につけたいということですか?
そうですね。でも、やっぱり一番興味があって、多くの人に見てもらいたいなと思うのはモーグルではあるのですが、幅広い知識は持ちたいですね。
夢を見られる競技
「世界一」を目指して取り組んでいたモーグル。その願いはかなわなかったが、いつか後輩がその夢をかなえる日を待ちわびる 【写真:ロイター/アフロ】
モーグルという競技が続けば続くほど気になるのかなと。一緒に戦っていた仲間がまだまだ若くて、(18年の)平昌五輪、その次も狙えるので、その子たちがやっている間は、多分情熱は変わらない気がしますね。
フリースタイルは新しい種目を入れる競技でもあるので、私はすごく面白い競技だなと純粋に思っています。だからこそ、それが続いている間は、そこで活躍できる日本人選手がいたらいいなと思っています。
――プロレベルとは言わないまでも、それ以外のスポーツをやる選択肢はありますか?
昨年の春くらいの頃は「あれをやりたい」「これをやりたい」といろいろ言っていました。体幹が結構しっかりしてる方だったので、アーチェリーとか弓道とかをやったら結構当たるんじゃないかっていうくらい(笑)。でも結局そこにいかなかったですね。最終的に考えていることは、スキーのことでした。
――雪山以外にいる自分が想像できないという感じですかね?
冬はやっぱり雪山に居たいですよね(笑)。
――モーグルという競技の楽しさを人に伝えることが今後の活動となりますか?
そうですね、需要があればなんですけど(笑)。自分が楽しみながら、自分が好きなことで何かできたらいいなと思います。そして後輩たちに対して、競技をやめた後に同じことをしたいと思ってもらえるように、可能性を広げてあげられるような道筋を作ることができればいいなと思います。
――では最後に、モーグル競技をやっていてよかったと思う理由を教えて下さい。
私は小さい頃、アルペン競技をやっていました。多分、固定概念のようなものですが、日本人選手がスキーでトップに立つのはすごく難しいと思っていました。ただ、ジャンプもアルペンももちろん日本人のメダリストがいますし、モーグルでも里谷多英さんが金メダルを獲っています。実際、自分がチャレンジして世界一になってみたいと思える夢を持てたのがモーグルでした。私だけでなく、後輩たちもその夢を見て世界一を目指すし、実際にその階段を上っている人がいる競技だと思うから、本当にモーグルをやっていて良かったなと思います。
長野五輪から17年。競技者として世界の第一線で戦い続けた彼女は今、その位置から離れた。しかし、その姿を見て成長してきた仲間たちが、その意思を引き継ぎ、世界に立ち向かっている。
(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)