安藤サクラ、打ち込んだボクシングと再会 映画『百円の恋』で見せる役者魂

しべ超二

ボクシングへの気持ちを再認識

「プロテストを受けるつもりで練習を積んだ」と語る安藤。受験を薦められることもあったという 【(C)朝岡英輔】

 本作への出演にあたっては、オーディションで主演が決まると、中学時代に師事していたトレーナーを探し出して練習を再開(※当時のジムは安藤が高校生の時になくなっていた)。10数年ぶりのボクシングだったが「思春期に一生懸命やったことは体に残っていた」と安藤はいい、それが逆に「自分はほんとにすごく好きなんだなって思った」とボクシングへの気持ちを再認識したと語る。

 中学時代の恩師に続き、映画の体制が固まってからは、映画にも出演している松浦慎一郎トレーナーに撮影まで3カ月の特訓を受けた。

「ちょっとした習い事感覚でしたけど、自分が思春期にのめり込んだことってボクシングしかなかったから、すごく感謝してるんです。ボクシングから学んだことって私にはとても大きかったので、やるのであればボクシング関係の方々に映画だからとか、しょせん役者がやるボクシングっていうふうに思われないようやりたいっていう気持ちが強くあったので、練習はかなりハードにやりました」

 実際にプロになる、プロテストを受けるつもりで練習を積んだと安藤はいい、関係者から撮影後の受験を薦められることもあったという。そうした言葉が決してお世辞でないことは、安藤が劇中で見せるフットワークでの足さばき、ミット打ちでのエルボーブロック、ヘッドスリップしてボディ→顔面と左フックをつなぐシャドーなどで確認してほしい。最初はドタバタと跳んでいた一子が、人が変わったように見せる試合前の二重跳びは、ドラゴ戦を前にしたロッキーを超えている。

ダラしない体型からボクサーの体つきへ

 また、ダラしない体型の一子が、引き締まったボクサーの体つきへ変貌を遂げるのも本作の見どころのひとつだが、実際この間、安藤に用意されたのはわずか10日間。時間がないため、脂質と糖質をカットすることで皮下脂肪を落とし、撮影の合間、極力3時間おきにササミを摂取、さらに試合シーンの撮影前には水抜きも行い、「10日で人間の体はこんなに変われるのか」と安藤自身が驚くほど、ボクサー・一子が出来上がっている。

 よくそれだけ打ち込めましたね、と言うと安藤は「周りの環境がそうさせてくれたっていうのが大きいかもしれないです。みんなが一緒に戦ってくれたんです」と答えたが、これも選手だけでなくセコンド・陣営が一丸となって戦う、実際のボクシングを思わせる。きっと『百円の恋』という映画自体が、安藤サクラにとって“試合”のようなものだったのだろう。

「今回は本当に、映画のためではあるけど、心積もりとしてプロになるつもりでやりました。そんなに熱心にできたっていうのは、ほんと幸せなことだなって思ってます。ぜひボクシングをやられている方、ボクシングが好きな方にも観ていただきたいです」

 思春期に打ち込んだボクシング、その感謝と思い出、そして現在の役者魂とが混然一体となり、一子が放つ左フックのようにぶつかってくる作品だ。

安藤サクラ

1986年2月18日生まれ、東京都出身。『風の外側』(2007)で女優デビュー。映画を中心に活躍し、『愛のむきだし』(09)でヨコハマ映画祭助演女優賞、高崎映画祭最優秀新人賞を受賞。『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10)などでキネマ旬報ベスト・テン助演女優賞を受賞。12年の主演作品『かぞくのくに』、『愛と誠』、『その夜の侍』への出演でキネマ旬報ベスト・テン主演女優賞と助演女優賞のダブル受賞をはじめ10以上の賞を受賞。その後も『ペタルダンス』、『今日子と修一の場合』(ともに13)などに出演。主演映画『0.5ミリ』(14)が公開中、15年も『娚の一生』など話題作の公開が控えている。

百円の恋


映画『百円の恋』予告編 − YouTube

実家でひきこもり生活を送る32歳の一子(安藤サクラ)は、離婚して出戻ってきた妹とけんかしたことで一人暮らしを始め、百円ショップでの深夜勤務にありつく。帰り道にあるボクシングジムで、1人ストイックに練習するボクサー・狩野(新井浩文)を覗き見することが唯一の楽しみとなり、やがて彼と恋に落ちる。狩野との幸せな日々はすぐに終わるが、たまたま始めたボクシングが一子の人生を変えることとなる……。11/15(土)〜、MOVIX周南ほかにて山口県内先行ロードショー、12/20(土)〜、テアトル新宿ほか全国ロードショー。

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著者プロフィール

映画ライター。ペンネームは『シベリア超特急2』に由来し、生前マイク水野監督に「どんどんやってください」と認可されたため一応公認。日本のキング・オブ・カルト、石井輝男監督にも少しだけ師事。プロフィール画は芸人ネゴシックスの手によるもの。

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