マルチプレーヤーを目指す大竹里歩 アジア大会の悔しさを糧に歩み続ける

田中夕子

細かなプレーが勝敗を分ける

「うまく回れば」効果を発する戦術だが、小さなミスやズレで綻びが生じる 【坂本清】

 日本とは異なり、多くの国際大会に出場した経験豊富な選手がそろったタイのフル代表に予選リーグでは1−3で敗れはしたが、Cクイックとライトからのスピードを生かした攻撃や、A、Bクイックとバックアタックを絡めるなど、さまざまな攻撃パターンが見られた。

 攻撃力でアピールしたい大竹も、この戦術に手応えを感じていたと言う。

「コンビが合わなかったり、『次はどこに入ればいいんだっけ?』と戸惑うこともありました。でも、うまく回れば攻撃枚数が増えるし、レシーブが乱れてもAクイックに絡めた時間差とか、センターからライトに開いて打ったりとか、今までやってきた形よりもバリエーションが多くなったと思います。高さがあるわけではないので、相手のブロックをどう抜けるかを考えたら、これから取り組んでいくべき方向性なんだろうな、と感じました」

 チームがうまく機能することに加え、自身の攻撃力も上がれば今後につながる可能性も広がる。だが、大竹が言うように「うまく回れば」効果を発する戦術も、小さなミスやズレが生じると綻びが生じる。特に敗れた韓国、タイとの試合では、スパイクをブロックされる、相手のサーブにエースを崩されるといった直接的な失点ではなく、ラリーの後に安易なサーブミスをする、チャンスボールがチャンスにならず攻撃が組み立てられないなど、数字には残らない細かなプレーが勝敗の差になった。

「何でもないプレーなのに、焦ってしまってボールの処理が雑になる。もっと丁寧にプレーしなければいけなかったんですけど……」

骨折をしながらも強行出場

大竹は左手を負傷しながらも大会に出場。すべてを力に変えて、次なる目標へ向けて歩み続ける 【坂本清】

 大竹に関して言えば、普段ならば難なくできるパスが、簡単にはできない事情が1つあった。アジア大会の直前に行われたアジアカップのベトナム戦で、相手のスパイクをブロックした際、ボールに指を弾かれ、左手の小指を骨折した。軽傷ではなかったので、アジア大会の出場を見送るという選択肢もあったが、他にもケガ人や体調不良者が相次いでおり、簡単に「やめます」とは言えない。何より自分自身が、この大会に出て勝ちたい、活躍したいという意思が上回った。

 左手を何重にも巻いたテーピングで固定し、スパイクやブロック、サーブに関しては大きな支障がないように見られたが、オーバーパスはできない。経験豊富なタイや韓国の選手たちは、それを素早く見抜き、チャンスボールを返す時も大竹の頭上を狙った。

課題は冷静な判断力と技術力

 何でもないようなプレーに見えるが、その何でもないプレーを当たり前にこなし、自チームのピンチをむしろチャンスにつなげる。冷静な判断力と技術力、安保監督はそれこそがまさに日本が徹底しなければならない課題でもあると言う。

「ノープレッシャーの中で行う1本のパスと、この1点をとったら勝ちだ、というプレッシャーがかかる局面での1本のパスは全然違う。そこでどれだけ正確なプレーができるかをアンダーカテゴリーに対してフィードバックしていかなければならないし、スパイクだけ、ブロックだけでレシーブやサーブ、セットはできません、という選手は必要ありません。すべての技術、判断力を備えたマルチプレーヤーを1人でも多く輩出したいし、しなければなりません」

 チームとしても4位という結果は到底満足できるものではなく、シニアへつながるきっかけをつかみたかった大竹自身としても、後悔が残る大会となった。だが、それもすべて、次につながる糧でもある。

「このチーム、この大会で経験したことを生かして、全部のプレーに安定感のある選手になりたいです」

 悔しさも、経験も、すべてを力に変えて。アジアから世界へ、次なる目標へ向けて歩み続ける。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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