敵将として対峙するレーブとクリンスマン 今も続く2人の友情、真剣勝負の結末は?
引き分けなら両国とも決勝T進出だが……
引き分けならともに決勝T進出が決まるが、両チームとも勝利を目指す。昨年の親善試合ではクリンスマン(写真)率いる米国が勝利しているが、今回はどうなるか 【写真:ロイター/アフロ】
友人同士の監督は、この数週間は連絡を取り合っていないことを強調した。そんなことは特別な話ではないと、レーブは最後に語った。「大会前だって、顔を合わせないことがあるのも普通のことだ」。またクリンスマンも、米国メディアにこう語っている。「われわれは良い友人だが、友情を深める電話をしている時間などない。今は仕事の最中なんだ」
2人はともに、純粋にプロフェッショナルとして、この試合を行おうとしている。その点が強調される理由は、25日がある「記念日」であることに関係している。32年前、「ヒホンの恥辱」と呼ばれる事件が起きたのだ。
このサッカー界の汚点のことを調べるのに、長い時間はかからないだろう。話は1982年のW杯にさかのぼる。グループ最終戦で対戦したオーストリアと西ドイツは、平和条約を締結していた。これにより西ドイツは1−0で勝利を収め、両チームとも2次リーグに進むこととなった。この結果、アルジェリアが大会から弾き出されることとなり、この合意に関する報道がなされた。今日で言うところの無気力試合――八百長である。
ブラジルで行われている今大会で、そうしたシナリオが実現するとは考えられていない。たとえ引き分けることでドイツと米国が仲良く決勝トーナメントに進めるとしても、両チームはグループ首位通過のために勝利を求めてプレーすることだろう。「われわれは引き分けを目指して築いてきたチームではない」と、クリンスマンは硬い表情で話した。「われわれは常に勝利のために戦う。それがわれわれのスピリットだ。これはいずれの試合にも当てはまる」。ヒホンの恥辱はドイツの史実であり、米国の歴史ではない。98年からカリフォルニアで暮らすドイツ人は、そう断言した。
同じ意見は、ドイツのキャンプ地からも聞こえてくる。「悪魔でさえも、われわれが引き分け狙いで戦わないことは知っている」。レーブのアシスタントであるハンス・フリックはそう話した。代表選手のDFマッツ・フンメルスも、こう付け加えている。
「そんなことはフェアじゃないからね」
親善試合では米国に軍配
さらに13年の6月にはいなかった人物が、今はクリンスマンのそばにいる。代表選手時代に指導を受けたベルティ・フォクツが、クリンスマンの新たなアドバイザーとなっているのだ。元上司の国際経験が恩恵をもたらすことを、クリンスマンは期待している。フォクツこそは、ドイツに直近のビッグタイトルをもたらした監督である。とはいっても20年近くさかのぼるのだが、96年に欧州選手権を制覇している。つまり、3人の偉大なドイツ人監督が、米国と彼らの「ディー・マンシャフト」(ドイツ代表の愛称)が対戦する試合のサイドラインに並び立つのだ。
06年の夏、ドイツ代表の物語は、クリンスマンとレーブを今も強く結びつけている。だが、ブラジルW杯では、最後に喜べるのはどちらか1人になるのか、あるいはまたも2人になるのか……。
この一戦がそれぞれの国の、また2人の指揮官の間の新たな物語のプロローグになるのか、エピローグになるのかは、もうすぐ分かる。
(翻訳:杉山孝)