「何が何でも、チームに貢献する」 W杯へ“らしく”臨む今野泰幸の心境

下薗昌記

自分たちのサッカーで世界を驚かせる

南アフリカ大会は6分間の出場に終わった。ブラジル大会は「全力を尽くして勝ちに行く」と雪辱を誓う 【Getty Images】

――昨年は一足先にコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)でブラジルの地を経験しました。より、ブラジル大会で活躍したいという思いや、イメージが膨らんだのではないですか?

 やっぱりサッカーと言えばブラジルだし、その国でW杯が開かれるのだから、相当盛り上がるでしょうね。それにコンフェデ杯では日本戦でもブラジル人のお客さんがたくさん見に来てくれて、すごく盛り上げてくれました。本大会でも間違いなく盛り上がるはず。そういう国で日本をアピールしたいですし、自分個人の目標も自分たちのサッカーで世界を驚かせること。そういうことを考えるとワクワクします。

――世界を驚かせるという言葉が出ました。4年前はしっかりと引いて守る中で勝機を見いだす戦いで挑みましたが、今の日本代表は能動的に仕掛けるスタイルです。ザッケローニ監督と積み上げてきたこの4年間のスタイルに対しての手応えはどうでしょうか?

(チーム戦術が)完璧になったという手応えはまだないけれど、相手が攻めて来るチームに対してはスペースも空いてくるし、日本代表の攻撃陣には素晴らしい選手が多いので、強豪相手でも「点が取れそうだな」とか「良い攻撃をしているな」と後ろから見ていても感じます。ただ、相手が守りを固めてきたり、組織的に守って、球際でしっかりと当たってくるようなセルビアやベラルーシのようなチームと試合をすると、まだ課題は出てくるだろうなと感じています。

――先に点を取られると、昨年秋の欧州遠征のように引かれて苦しくなることも予想されます。不用意に失点しないためにも、今野選手ら守備陣の責任も大きくなってきます。

 もちろん先に失点はしたくはないけれど、だからと言って守備的に戦いたいとは思わない。今の日本代表の良さは全員攻撃、全員守備なんです。守備は守備陣に任せるのではなく、組織的に11人でまとまってプレスをかけたいし、攻めに行くときにはみんなで攻める。そういうサッカーをやっていけばいいと思う。代表ではCBにビルドアップも求められているし、前線に良い選手が多いので僕らから良いボールを出せば、きっとやってくれる。コンフェデ杯のブラジル戦ではDFラインにまでプレスをかけてくるし、僕らも余裕がなくなった。そうなってしまうと前線の選手を生かしようもないですからね。

今野ならではの重圧への対抗策

――前回の南アフリカ大会を終えてから、この4年間でG大阪への移籍などを含めて、さまざまなことがありました。W杯を経験したことで意識が変化したり、ご自身の中でさらなる成長を図ったりしたようなことがありますか?

 この4年間はどうだったんだろう。長かったのか、短かったのか……いろいろありすぎましたからね。僕のサッカー人生はとにかく「激動」という言葉が合っていますよね(笑)。うれしいことも、辛いこともいろいろありましたから。でも僕は結構、自分の目の前の課題に集中するタイプなんですよ。目の前にある自分の課題に対して、それを地道に積み上げて行くタイプなので、4年前の大会が終わった時に次のブラジル大会のことなんて、全く頭になかった。あの6分を経験したからといって、次につなげようなんてこともなかったし、僕の中での思い出や記録としては残りましたけど、あの出場がプラスになったかどうかは正直わかりません。実はあの時、「もう代表のキャリアは終わりかな」と思っていたんです。でもザック監督に呼んでもらって、さまざまな強豪国と3次予選や最終予選などを戦い、数多くの貴重な経験をさせてもらいました。その戦いの中で自分の課題を見つけながら、プレーしてきたつもりです。

――日本代表として日の丸をつけて、世界のひのき舞台で戦う意義はどうですか?

 重みは本当にありますよ。重み、プレッシャー、重圧……責任感を持たなければいけないと感じますね。でも、それを感じすぎると肩に重りが乗っているような状態でプレーしている感じになる。そんな時は絶対にいいプレーができないので、「サッカーが楽しい」とか「僕なら絶対に負けない」というふうに思わなくてはいけない。

――代表では不動のCBですが、G大阪では昨年からボランチでプレーしています。今年3月の親善試合(ニュージーランド戦)も風邪で欠場しましたが、CBを経験しないままに本大会に挑む難しさは感じていませんか?

 ボランチでプレーすることは開幕前から長谷川(健太)監督に言われていたことだし、僕もそれにチャレンジするつもりだった。開幕前は自分の感覚でできていたし、「これなら今季ボランチでやっていけるな」と思っていたのですが、開幕してからどんどん自分の感覚がなくなってきて、ミスも増えてきた。CBに関しては、代表に選ばれた後は練習をする時間もあるし、そこで感覚を戻して行くしかない。まあ、やるしかないですね。

――今野選手にとってサッカー人生の集大成となるブラジル大会に向けての意気込みや目標を教えてください。

 Jリーグには良い選手がたくさんいる中で、代表に選ばれなかった選手もいます。そして、サポーターも「この選手を選んでほしかったのに」と思う人もいますよね。だから、そういう人たちの思いをすべて背負いながら、責任感を持って戦いたい。何が何でも、チームに貢献することだけを考えてW杯に乗り込みたい。まずはそういう思いを込めてプレーしたいと思っています。そして代表で僕はCBを務めることになると思いますが、身長が低くてもやれるというところを見せたい。そうすれば、小さい子どもさんもサイズが小さくてもCBをやれるんだと思ってくれるはず。コンフェデ杯の時に、サイドからクロスを上げられて簡単に競り負けて失点したような場面はなかったし、僕自身の感覚で、ボールを奪った後に良い形で攻撃につなげられた場面もありました。だから、そういうプレーはブラジル大会でも続けたい。とにかく自信を持ちながら、サッカーを楽しみたいし、日本中が喜んでくれるような結果を残したいです。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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