宇佐美貴史が切り開いた点取り屋の新境地=再び輝きを放ち始めたガンバ大阪の至宝

下薗昌記

肉体改造で強さも身につける

 4得点すべてを異なるパターンで記録した徳島戦で「FWとしての美学を感じた」男は、11月以降も最前線を主戦場に4得点。徳島戦までにかつての課題だったメンタル面で飛躍的な成長を見せて来た宇佐美は、11月以降もう一つの課題にも確かな成長の跡を見せつける。

 それは6月の日本復帰後、取り組んできた肉体改造の成果である。「帰国してから今までで既に体重が5キロ増えている。そのうち、筋肉量は3キロ。最終的に77キロぐらいまで増やせたら体としては完成系なのかなと思う」

 筋力トレーニングは言うまでもなく、練習後の栄養摂取など戦うための体作りに取り組んできた成果は11月以降のプレーに如実に現れてきた。

 自身初の4試合連発をかけた京都戦では得点こそなかったものの、相手の寄せにも負けずに最前線で起点になったり、相手DFを弾き飛ばしたりと明らかに分厚くなった上体の強さをアピール。ドイツに渡る前は「フィジカルコンタクトを避けるドリブルで勝負したい」と話していた宇佐美だったが、今では「フィジカルあってこそ技術が発揮できる」とかつてバイエルン・ミュンヘンで同僚だったアリエン・ロッベンとフランク・リベリから学んだ教訓をその胸に刻み込んでいる。

 徳島戦の1点目が新境地を開くものならば、従来からのストロングポイントを更にスケールアップした得点がホーム最終節となった11月17日のモンテディオ山形戦のそれだ。

 2−1で拮抗していた68分、二川孝広からの絶妙なパスを受けると利き足でない左足を一閃――。全体重が乗った重いシュートは、ズドンという音が聞こえてきそうな迫力で山形ゴールに突き刺さっていた。

活躍の舞台はJ1へ

 わずか半年たらずで心身ともに確かな成長を見せてきたG大阪の頼もしきエースストライカー。「ガンバに戻ってきた直後は正直、今からブラジル大会は厳しいかなと思っていた」と日本代表への思いを封印しかけていたものの、「来年J1で最後のアピールをしたい」と再び意欲を見せる。そのワールドクラスのシュート力で、ブラジル大会への切符をつかみ取るつもりだ。

 長谷川監督は、その伸びしろに太鼓判を押す。「リーグ戦終盤の5試合でポジションが少し高い位置になって更に進化したように思う。リーグ戦の終わりの方では、色んなオプションで点が取れるようになってきたし、まだまだストライカーとして伸びる可能性は秘めている」

 次に宇佐美がMVPを勝ち取るべきは、来年挑むことになるJ1のステージだ。

「オフに鍛えたいのは全部」

 ドイツでの不遇の時期を乗り越え、再び輝きを放ちだしたG大阪の至宝は力強く、言い切った。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント