高橋成美と木原龍一が過ごした激動の1年=ペア誕生から失意を経て、いま思うこと

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NHK杯では大きな声援を受ける

NHK杯では多くの歓声を浴びた高橋と木原。「楽しく滑ることができた」と満足感を表した 【坂本清】

 2人にとっては、11月に控えていたNHK杯もモチベーションをかき立てる要因になっていた。ペア結成から初めて迎える日本での国際大会。「NHK杯は会場でお客さんのすごい応援があって、良い演技ができるイメージがある」と過去3回出場していた高橋が語れば、木原も「初めてのGPシリーズが日本で良かった」と話し、特別な舞台であることを強調していた。実際、結果こそ8位と最下位に終わってしまったが、これまでの苦難の道を知るファンからは大きな声援を受けた。

「すごく温かい声援を送っていただけたし、大きな拍手もしてくれたので本当に感謝しています。特にフリーではそれが後押しになって、元気に滑ることができました。励みにもなりましたね」(高橋)

「雰囲気が全日本選手権に似ていました。自分は全日本選手権は滑り慣れているからすごくホームみたいな感じでしたね。そこまで緊張もしなくて、演技中に表情の余裕まで作れました。ここまで来るのに正直不安はたくさんあったんです。『いきなりGPシリーズに出て大丈夫か』とか。だけど終わってみるとSP、FSと楽しく滑れて自信になりました」(木原)

 愛知県東海市出身の木原は、海外経験が豊富な高橋とは違い、これまで外国生活をしたことがなかった。「練習以外では1人で楽しくゲームをやっています」とおどけるが、多少なりとも日本への望郷の念もあるという。「生活には慣れました。向こうで車も運転していますし、買い物も行っていますが、やっぱり日本の方が好きですね。帰りたいというわけではないですが、日本に帰ってきたら楽しんでいます」と、本音ものぞかせる。

 いずれにしても、今季はまず1年目ということでとにかく経験を積むことが大事だと2人は感じている。現在の課題は何なのだろうか。

「結成して間もないので経験や時間が必要ですが、エレメンツのGOE(出来ばえ点)を上げることはもっと頑張ったらできると思うので、それを目標にやっていきたいです」(高橋)

「まだリフトのレベルアップの可能性が残っているのでそれと、小さいミスを減らすことです」(木原)

決して平坦ではなかった1年

団体戦要員として五輪に出場する可能性はまだ残されている。両者ともに「目標とする舞台」と語る 【坂本清】

 高橋と木原には、団体戦要員としてソチ五輪に出場できる可能性がまだ残されている。今大会から正式競技として行われる団体戦は男女シングル、ペア、アイスダンスで構成されており、ネーベルホルン杯でアイスダンスのキャシー・リード&クリス・リード組(ともに木下クラブ)が五輪枠を勝ち取った。さらに12月9日、国際スケート連盟(ISU)から団体の出場10カ国が発表され、日本も4番手で出場権を獲得した。その際に両者はペアのメンバーとして名を連ねることが有力視されている。単独での出場がかなわなかっただけに、複雑な気持ちを抱いているようだが、やはり出られるものなら出たいと2人は思っている。

「初めて見た五輪はソルトレークシティ五輪(02年)でした。アレクセイ・ヤグディン選手(ロシア)とエフゲニー・プルシェンコ選手(ロシア)が印象に残っています。目標とする舞台なので、出場できたら自分たちの力を出し切って日本チームの力に少しでもなれるように頑張りたいです」(高橋)

「僕は長野五輪(1998年)が印象に残っています。本田(武史)先生が高校生で出ていたので、それで初めて『五輪ってすごいな』と思ったのを覚えてます。4年に1回で本当に特別な舞台なので、もし出場できたらチームジャパンの力になりたいです」(木原)

 2013年は2人にとって、キャリアのターニングポイントとなる激動の年だったことは間違いない。まだ全日本選手権が残っているものの、最後にこの1年間を振り返ってもらった。

「いろいろありましたけど、いまはこうして笑っていられる。自分が決めたことに対しては何ひとつ後悔はないという気持ちです」(高橋)

「やっぱり平坦な道ではなかったです。どんどん前に進みたいけど進まない。体がついてこなくて、先生もそれを分かっているからゆっくりやる。予選が近づく不安もあったし、焦りもありました。それでも、さまざまな経験もできましたし、充実した1年だったと思っています」(木原)

<了>

(文・大橋護良/スポーツナビ)

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