なぜ強い? 分析不能なローマの快進撃=“想定外”セリエ開幕9連勝の要因を探る

宮崎隆司

今のところ不安要素が見つからない

新加入ながら既に絶大な存在感を示しているストロートマン。守備に安定をもたらした 【Getty Images】

 その上で、これもまた数字(9試合で失点1)が示す通り、守備の安定は群を抜いてる。センターバックのメフディ・ベナティアやサイドバックのマイコンら実力者が加入したことはもちろんだが、現状、最も“利いている”のは中盤に加わったケビン・ストロートマン(オランダ代表、23歳)ではないか。いわゆる「守れる、(ゲームを)作れる、打てる(点を獲れる、点に絡める)」の3拍子をそろえたMFは、高さもあり攻守において絶大な存在感を示している。結果、これまでほとんどダニエレ・デ・ロッシひとりで担ってきたともいえる仕事を軽減させるだけでなく、そのデ・ロッシ本来の特性(攻撃力)を生かす上でこれ以上ない存在となっている。
 
 そして、本来であればここで「とはいえ、垣間みられる不安」的なるものを記すべきところなのだが、率直なところ現状では、そうした負の要素を見いだすのは困難と言うべきだろう。

 先の第9節、攻撃の核としてチームをけん引していたジェルビーニョを、さらには、ほぼ驚異的と言う以外にないプレーを37歳にして連発していたエース、フランチェスコ・トッティをも故障で欠きながら迎えたアウエーでのウディネーゼ戦。前述の通りDFマイコンを後半21分にして欠き、10人となりながらも競り勝ってみせた戦い振りを見る限り、このチームはまさに勝利が次の勝利を呼ぶという好循環に入っていると確信せざるを得ないからだ。

 したがって、敢えて懸念の材料を述べるとすれば、いわゆる慢心という、至って平凡な言及に過ぎなくなる。その意味で、本稿が掲載される31日(木)の第11節、単独最下位に沈むキエーボとの一戦はひとつの重要な試金石となる。ちなみに、今季の第5節(9月25日)、当時ローマと並んで首位グループの一角にあったナポリは、ホームで最下位(当時)サッスオロとの試合を勝ち切れずに終えている(1−1の引き分け)。

次の山場は強豪との連戦が控える年末年始

 さらに、今後を占う意味では、どこかで必ずや訪れるであろう敗戦、その直後の戦い方、これこそが厳しく問われることになるに違いない。あの05−06シーズン、ユベントスは9連勝の後に対ACミラン戦を1−3で落とすも、続く第11節から05年末までの7戦を6勝1分けで終えている。しかも得点19、失点4という圧倒的なスコアで、である。

 だが、これもまた今のローマを見る限り、おそらくは杞憂に終わるであろうというのが現時点での印象だ。まさに賞賛の嵐というべき状況の中で、その手の質問を遮ってガルシア監督が発した言葉、「次の対キエーボこそが今季これまでで最も難しい試合になる」

 その静かにして他の記者団に有無を言わせぬかのような語気の強さが、チーム内部の充実度を如実に物語っていると実感した。とはいえ、これもまた印象に過ぎず、具体的な根拠とは言えないのだが……。

 そして最後にもう一点。着目すべきは、このローマの9連勝に強豪相手が少なくとも4つ含まれているという点を記しておきたい。4節(9月22日)には“ダービー”でラツィオに勝ち(2−0)、第7節(10月5日)では敵地ミラノに乗り込んでインテルを文字通り粉砕(3−0)、続く8節(10月18日)の首位直接対決となった対ナポリも完封で勝利(2−0)、そして直近の第9節では強豪クラブたちが最も苦戦する相手とされるウディネーゼに、前述の通り10人になりながらも競り勝っている(1−0)。これは偶然ではなく必然なのか。

 一方、件のユベントス9連勝では、その強豪相手の試合はわずかに1、第6節(2005年10月2日)の対インテル戦のみである。
 
 以上、いくつかの「それらしき」事柄を並べてみたのだが、もちろん十分とは言えなくとも、リーグ最多記録タイ「開幕9連勝」を裏付けるためのそれなりの根拠とはなるのではないか。
 
 第4節のダービー、先制点を決めたバルツァッレッティの涙は実に印象的だった。他にも、ミラレム・ピャニッチはローマでの活躍だけでなく母国ボスニア・ヘルツェゴビナのワールドカップ(W杯)初出場を決める立役者ともなり、デ・ロッシはもちろん、御大トッティも熟練の技を武器にブラジル行きの招集レースに割って入ってくるだろう。また、若いフロレンツィも試合を経るごとに成長している。前出のストロートマンもそう、W杯に向けた熾烈な競争が繰り広げられる中で、リーグ戦のみに集中できる環境もまたシーズン終盤で有利に働くはずだ。

 久しぶりに熱狂する首都ローマ。ライバルはユベントス、ナポリ、そしてインテルとフィオレンティーナ。今は不振にあえいでいるが、いずれミランも順位を上げてくるに違いない。ゆえに、ローマにとって次なる山場は第15〜18節。対フィオレンティーナ(12月8日)、対ミラン(12月16日)と続き、17節の対カターニア(12月22日)を挟んで、対ユベントス(1月6日)を控える。

 いずれにせよ、久々に面白いセリエA、スクデット争いとなりそうである。

<了>

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著者プロフィール

1969年熊本県生まれ。98年よりフィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。2004年の引退までロベルト・バッジョ出場全試合を取材し、現在、新たな“至宝”を探す旅を継続中。『Number』『Sportiva』『週刊サッカーマガジン』などに執筆。近著に『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜』(コスミック出版)

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