東京五輪で私たちの生活は良くなる?=経済効果よりも期待したいこと

高島三幸

前回の東京五輪とは全く異なる

超高齢化社会を見越した五輪の在り方を提案した経営コンサルタントの小宮氏 【スポーツナビ】

――五輪決定で来年の消費税アップも予想できますが、私たちの暮らしにどのような影響を及ぼすのでしょうか?

 過去の東京五輪の時とは全く違う背景の下、今回の五輪は開催されるのだと、再認識した方がいいでしょう。昔のような発展途上の状態ではなく、経済大国という成熟社会の中でどのように進めればいいのか。それが一つの鍵になると思います。

 消費税の3%増は恐らく実施されるでしょう。しかも、物価は上昇し始めています。それは日銀の政策がうまくいっているというより、円安によりガソリンなどの輸入物価が上がっているからです。給料が上がらない中での消費税3%増は、決して楽なものではなく、このまま政府が何も手を打たなければ、増税後は高い確率で景気の失速が考えられます。

 経済を活性化させるためには、“本物”の政策が不可欠です。9月中にアベノミクスの3本目の矢の「成長戦略第2弾」が発表されます。6月に発表された第1弾は国民の失望を買いました。今回は一切情報が漏れてこないので、再び失望するような内容だったら……と心配になりますが、五輪開催が決まった以上、いつまでもお祭り気分で浮かれることなく、しっかりとした成長戦略の提示を期待せざるを得ない。五輪だけの経済効果で景気が継続的に成長することはあり得ません。徹底した規制緩和など、本物の抜本策を望むばかりです。

「超高齢化社会を見越した五輪の在り方」

――2012年のロンドン五輪も日本と同様、コンパクトな五輪をうたっていました。ロンドンは五輪開催後、何か変わったのでしょうか?

 公共事業の増加で、五輪までの数年間は成長率のアップが望めたはずですが、英国は五輪の直前まで、3四半期連続でマイナス成長を続けていました。五輪開催時の3カ月のみ、年率3.0%の成長を見込めましたが、その後、失業率が改善したわけでもなく、大きく経済成長を遂げたとも言えません。
 五輪全体の経済効果は約165億ポンド(約2兆6000億円)で、ロンドン五輪の政府の歳出額は約93億ポンド(約1兆4000億円)だそうです。「半径8キロ以内での開催」とうたう東京はロンドンよりもっとコンパクトになるので、やはり経済効果もそれほど期待できないと考えられます。

――20年の五輪を、私たちはどのような位置づけで捉えれば、有意義なものになるのでしょうか?

 五輪の経済効果云々という議論をするよりも、先ほども言いましたが、せっかく開催できるのですから、成熟した社会の中での五輪の在り方にこだわればいいのだと思います。例えば、日本が避けて通れない「超高齢化社会を見越した五輪の在り方」といったコンセプトもアリでしょう。
 前回の東京五輪にはなかったパラリンピックを開催するのですから、地下鉄やバス、五輪施設などのインフラにバリアフリーを施せばいい。世界各国から集まるパラリンピックのアスリートも移動しやすいし、「世界一高齢者が住みやすい街」を目標にすれば、高齢者が街に出やすくなってお金を落としていくなど、五輪閉幕後の超高齢化社会にも貢献できるはずです。1つのロールモデルとして世界に発信できるでしょう。

 そして、せっかくのスポーツの祭典なのですから、これを契機にスポーツインフラも整えてほしいと思います。子供たちへのスポーツ育成はもちろん、高齢者向けの運動施設やサービスなどを設ける。多く人が運動をして“健康寿命”が延びれば、医療費や介護費用の軽減につながるはずです。

 そのためにも、五輪後は安価な使用料で運動できるような、ランニングコストを抑えたスポーツ施設やサービスを整えることが大事です。使用料が高くて誰も利用せず、毎年赤字が膨らむような施設では、せっかく五輪開催の機会をつかんだのに本末転倒です。
 1998年の長野冬季五輪では、施設整備などの巨額資金がかかり、県債残高を抱えてしまいました。その時に建設されたスケートリンクなどの関連施設の維持費は、毎年9億円かかるそうです。しかし、実際の施設収入はわずかに足らず。その差額は自治体が負担しています。このような例を見ても、五輪後の活用を見越した施設建設を期待します。

 子供たちにとって、五輪は夢や希望が詰まった未来を想像できる貴重な機会です。そのワクワクした気持ちは、きっと大人になっても忘れることなく、次の世代へと引き継がれるような動機づけにもなる。
 また、超高齢化社会を迎えるこのタイミングの五輪開催だからこそ、これを契機に、私たち大人も未来を描けるような五輪開催を切に願います。

<了>

プロフィール

小宮一慶(こみや・かずよし)
 経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業後、東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学し、MBAを取得。『ハニカム式 日経新聞1週間ワークブック』など著書多数。小宮コンサルタンツ facebookページ:http://www.facebook.com/komiyaconsultants

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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