バルサU−12・久保建英のすごさとは?=指導者たちが語る「頭の良さ」と「賢さ」
テクニックとスピード、世界との差
周囲をうまく使い、決定的な仕事をこなす力は、優れたタレントがひしめくバルセロナにあっても際立っている 【写真/新井賢一】
バルセロナは、出場機会を均等にするためアクシデントが起きたとき以外はプレータイムを区切って選手を出場させている。今大会は猛暑の中で1日2試合以上行う過酷な日程だったが、バルセロナはこのスタンスを崩さず、しかも次々と出てくる選手のクオリティーに大きな差はない。初日にバルセロナの洗礼を受けたセレッソ大阪U−12の大谷武文監督は「バルセロナは12人目のクオリティーも含めて、トータルですごかった。世界に通用する個人を掲げているクラブなので負けたくなかったのですが……」と、バルセロナの選手の質の高さに驚きを隠さなかった。
一方で、バルセロナのサンス監督は「個人の技術には驚かされた」と日本の選手たちの個々のスキルを評価している。これはリバプール関係者にも共通することだが、外国人から見た今大会の日本人選手は「とても高いレベルの技術を持っている」のだそうだ。アモール氏も「スピードはバルサに負けていない」と評した。一方で「バルセロナのプレースピードに驚いた指導者が多かった」と伝えると、「スピードとは足の速さや俊敏性だけではありません。きっと彼らが言っているのは考える早さのことでしょう」という答えが返ってきた。
「数試合しか見ていないのでベーシックなことは分かりませんが」アモール氏はこう前置きしたあとで、「今回は多くの試合でバルセロナがボールを保持している時間帯が長かったですが、ほとんどの時間帯で守備側のチームは“待っている”状態でした。ボールを奪ったあとも、瞬時に考える状態、判断ができる状態になかったように見えました」
実際に対戦した選手や指導者たちも、バルセロナの印象を問われて「球際の激しさ」や「攻守の切り替えの早さ」と答えていたが、日本の選手たちの判断の準備、その部分の賢さが足りないとすれば、アモール氏が挙げてくれた久保君のストロングポイント、「インテリヘンテ」と「リスト」がそのまま日本と世界の差ということになる。
「すでに素晴らしいフットボリスト」
「たとえば外国の選手がバルセロナに入ること。これはとても困難な道のりです。バルセロナでは、まずカタルーニャの優秀な選手が選ばれます。カタルーニャの子どもたちは世界でも屈指のレベルにあるので、その選手たちより明らかに上でないと、スペイン国内の選手でもバルセロナに入ることはかないません。そこからさらに海外の選手となると、FIFA(国際サッカー連盟)のルールもありますし、一目見て抜きん出るものを持った“並外れた選手”でなければ私たちがピックアップすることはないのです」
さらに付け加えるなら、バルセロナはトップチームの志向するサッカーに合せて「バルサ好み」の選手を選ぶ傾向にある。要は「頭の良さ」を重要条件と考えているのだ。
「日本の選手は局地的な場面では十分通用する技術を持っている」。準決勝でリベンジマッチに挑んだあとの東京ヴェルディジュニアの松尾監督の言葉を借りるまでもなく、バルセロナ、リバプールの関係者は口々に技術面でのレベルの高さを称賛している。ドリブルでボールを持てる選手も、相手をかわせる選手もいたが、久保君のようにチーム全体が生み出した大きなダイナミズムの中で的確な判断に基づいて技術を発揮できる選手はそうはいない。
その久保君もこれからトップ昇格、世界を舞台にした活躍となると、まだまだたくさんのハードルを越えていかなければいけない。バルセロナでは1年ごとに選手の入れ替えが行われる。毎年、世界から選抜された猛者たちとの競争にさらされ、抜きん出た違いを見せ続けなければ栄光はつかめないのだ。
「タケフサはまだ若い。さらなるハードワークを続けていくと思いますが、これだけは言えます。彼は素晴らしいサッカー少年であり、すでに素晴らしいフットボリストでもありますよ」
かつてドリームチームのキャプテンも務めたアモール氏は笑顔でこう言った。
<了>
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