「フェアリー」返上! 修羅場をくぐり抜けた新体操団体チームに期待

椎名桂子

逆境で見せた意地とプライド

過酷な代表争いの末に選出されたフェアリージャパンの6選手 【スポーツナビ】

 遠藤の穴を埋める最良の策を、日本は総力を挙げて模索していた。山口、中津、穴久保のような力のある個人選手を入れることも考える一方で、杉本、国井のような次につながる若い選手を入れるという手も検討された。

 5月末に日本で行われたユースチャンピオンシップで、「フェアリージャパンPOLA」のエキシビションが行われたが、そのメンバーを見て多くの人が驚いた。遠藤が抜けて残った6人のほかに、昨年度全日本チャンピオン・山口留奈(イオン)をはじめ、中津裕美(東女体大)、穴久保璃子(イオン)、杉本早裕吏(みなみ新体操クラブ)、国井真緒(山形RG)が加わり、入れ替わりながらなんと2日間で8回もの試技を行ったのだ。

 団体の練習はわずかしかしていないメンバーが5人も入れ替わりで入ってくるのだ。このときの8回の試技は、元からのメンバーたちにとっては過酷の極みだったと思う。当然、ミスもあった。しかし、このときの演技からは、かつてないほど彼女たちのエネルギーが感じられた。遠藤の穴を埋めなければならないという責任感からか、どんなメンバーになっても、自分達がチームを守る、という自覚からか。このときの彼女達は、「フェアリー」らしさをかなぐり捨てていたように見えた。

 まだ不慣れなメンバーがミスをしても、他の4人が必死になってカバーする。慣れない選手に安心感を与えるアイコンタクト、フロアに入るときも、出ていくときも声をかけ合って。彼女たちは自分たちのチームを少しでもいい形にしようと必死になっていた。「メンバーが代わったから仕方ない」とあきらめることはなかった。

 それまでずっと演技では見せきれなかった「強さ」や「たくましさ」を、“遠藤由華の離脱”という悲劇に直面したこの土壇場で、彼女達は見せてくれた。

代表決定までのサバイバルレースで得たもの

 さらに、新たに補充候補選手(山口、杉本、国井)を加えて行われたクロアチア合宿は、代表決定のための最後のサバイバルレースとなった。毎回、メンバーを入れ替えながらの練習。2年半「フェアリージャパンPOLA」の一員として練習を積んできた選手でも、ここで落ちてしまうかもしれない、という緊迫感をもたずにはいられない状況がそこにはあった。

 6月29日に発表された最終メンバーは、「田中、松原、サイード横田、深瀬、三浦、畠山」。新たな補充候補からは選出されず、元のさやに収まった形だが、この最終選考を経て選ばれた6人は、今までとはまったく違うチームに生まれ変わったはずだ。

「勝ち抜いた者の強さ」を、彼女たちはついに手に入れた。そして、今まさに「逆境を超える力」をつけている。このチームになってから限りなく近づいていながら、遠藤の離脱で一時は遠ざかってしまったようにも思われた「五輪での入賞」をもう一度、ぐっと引き寄せる演技を、このチームなら見せてくれそうだ。また、ロンドン五輪に向けて、リボン&フープでの使用曲を「座頭市」に変更したという。それまでの曲よりも、「日本」を感じさせると同時に、会場を味方につける力をもったこの名曲で、日本チームは、ロンドンで力強く、エネルギッシュに舞う。

 彼女たちはもう「フェアリー」なんて存在感の薄い女の子たちではなく、日の丸を背負って戦うチームなのだ。

<了>

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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