変ぼうを遂げたダニッシュ・ダイナマイト=デンマーク 2−3 ポルトガル

鈴木肇

ドイツ戦の鍵を握るエリクセン

ポルトガルは終了間際にバレラ(左)のゴールで勝ち越して勝ち点3を手にした 【Getty Images】

 そして3つ目は、逆境をはね返す力を備えたことだ。ポルトガル戦では前半早々にジムリングが足を痛めて負傷交代を余儀なくされ、その後2点のビハインドを負った。ベントナーのゴールで1点を返したが、後半に入ると今度はロンメダールが同じく足を痛めてベンチに退くという事態に陥る。そういったアクシデントがあったにもかかわらず、再びベントナーがゴールネットを揺らして同点に追いついた。最終的に敗れはしたが、この粘りは特筆に値する。

 思い返せば、予選でもデンマークは劣勢をはね返してきた。予選序盤は思うように世代交代が進まず、さらにベントナーがけがで最初の3試合を欠場するという厳しい状況のなか、格下アイスランドとの初戦では1対0で勝利したものの、終了間際になってようやく決勝点を決めるという厳しい戦いぶり。続く敵地でのポルトガル戦は1対3で完敗を喫した。スカンジナビアのライバルであるノルウェーが好調を維持していたこともあり、一時はプレーオフ出場圏外の4位にまで順位を下げた。

 だが予選中盤以降、先述したように若手や中堅選手が台頭したことでチーム力が大幅にアップ。首位ノルウェーとの大一番「バトル・オブ・ノルデン」を2対0で制し、予選突破を懸けた最終節のポルトガル戦を2対1で逃げ切るなど、最後は4連勝で予選をフィニッシュ。グループ1位で本大会への出場権を獲得した。

 グループリーグ最後の相手は2連勝で勢いに乗る優勝候補ドイツ。実力差から考えれば、デンマークが不利であることは誰の目にも明らかだ。通算対戦成績でも8勝3分け14敗で大きく負け越している。さらにオルセン監督によると、ポルトガル戦で負傷退場したロンメダールとジムリングはこのドイツ戦に出場できない可能性が大きいという。たが一方で、縁起のいいデータもある。ビッグトーナメントにおける対戦成績ではデンマークが2勝1敗で勝ち越しているのだ。2勝のうちひとつは、ユーロ史上最大の番狂わせといっても過言ではない1992年スウェーデン大会の決勝戦で収めた勝利だ。

 ドイツ戦でカギを握る選手、また期待したい選手としてエリクセンを挙げたい。オランダ戦ではタブロイド紙『B.T.』の採点で出場選手中もっとも低い評価を受け、ポルトガル戦でも本来の力を発揮できずに終わったが、それでも本人は「調子は良くなっている」と前向きにコメント。さらに「わたしたちはユーロ本大会の初戦で勝利を収めた初めての代表チームだ。いまのチームを歴史に残したい」と今大会における意気込みを見せる。あのラウドルップ兄弟の再来といわれる稀代のタレントが爆発すれば、2004年大会以来のグループリーグ突破が見えてくる。

チームの温かさは今も変わっていない

 最後に、デンマークらしいエピソードを2つ紹介したい。大会前の合宿期間中、代表チームの公式スポンサーであるブックメーカー、ラドブロークスの主催により、選手と市民がライブチャットする機会が設けられた。このチャットは6日に分けて開催され、エリクセンやケアーらが市民の質問に答えるなどしてお互いの交流を深めた。

 続いて、オランダ戦から3日後の6月12日。この日は、大会直前のテストマッチで背中を負傷し登録メンバーから外れたGKトーマス・ソーレンセンの36歳の誕生日だったのだが、代表チームの選手がバースデーソングを合唱するシーンを映したビデオレターがソーレンセンに贈られた(この映像はデンマークサッカー協会公式ホームページでも視聴可能だ)。2002年日韓W杯での和歌山キャンプではすべての練習を公開し、ほぼ毎日サイン会を開くなど、心温まる話題を提供してくれたデンマーク。チームの戦い方などは変化しているが、その温かさは今日でも変わっていない。

<了>

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著者プロフィール

1978年生まれ。埼玉県出身。1994年米国W杯で3位入賞したスウェーデン代表に興味を持ち、2002年日韓W杯ではデンマーク代表の虜になり、スカンジナビアのサッカーに目覚める。好きな選手はイェスペア・グロンケア。自身のブログ(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/swe1707/)でスカンジナビアのサッカー情報を配信中。

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