東北人魂を胸に、復興活動を続ける小笠原満男=被災地のサッカー少年にグラウンドを
始動予定の「グラウンド再生プロジェクト」
福島第一原発事故の収束拠点と化しているJヴィレッジ。子供たちがサッカーをするためには、少しでも早くグラウンドを再生しなければならない 【元川悦子】
そんな現状を踏まえ、昨年末のFIFA(国際サッカー連盟)クラブワールドカップで来日したFIFAのジョゼフ・ブラッター会長が「東北被災地各県に1億2千万円ずつ出してグラウンドを作りたい」と申し出てくれた。だが、土地を20年間無償で貸してくれる自治体が現れないことには始まらない。しかも人工芝は7〜10年で補修する必要があり、一面全部張り替えるには5000〜7000万円もかかる。それを各県協会が負担しなければならず、せっかくの話も実現できるかどうか分からないという。
「被災地でそれだけのお金を作り出すのは簡単じゃない。だからこそ、僕らが何とかしたいという気持ちが強いんです。東北人魂で『グラウンド再生プロジェクト』を作って、そこから張替え費用を出せるようになれば、FIFAの申し出ともリンクできるから。一方、僕らは僕らで別のグラウンドも用意したい。『仮設スーパー』があるなら、『仮設グラウンド』があったっていい。砂をまいて、ちょっとしたゴールを置いてネットをつけるだけでサッカーはできるんだから。まずは場所探しからだと思います。この前も岩手でいろんな人と話したけど、私有地なら使えるんじゃないかって話が出ました。『田んぼや畑があった広大な土地をこの機に買ってくれるなら、子供の施設に使ってほしい』と言ってくれる人がいると。そういう人と場所が見つかれば、あとはお金の問題になる。そのためにも、東北人魂できちんとした受け皿を作ることが大事。これは今すぐやらないといけない。事務局のスタッフとも相談して、できるだけ早くプロジェクトを立ち上げるつもりです」と小笠原は語気を強める。
子供たちの笑顔を取り戻すために
「東北の漁業関係では、1万円の出資を募って養殖施設や船を修理するお金に充て、獲れた魚介類を還元するっていう支援方法があると聞いてます。そういうのはすごくハッキリしてていいですよね。日本赤十字への募金ももちろんいいことだし、それで助かる人もいるわけだけど、目に見える形でお金を出せる仕組みがあった方がより明確だから。『グラウンドを作って、子供たちの笑顔を取り戻したい』という僕の考えに賛同してくれる人が増えるように、しっかりとプロジェクトを立ち上げ、うまく回るようにするのが、今の僕の仕事なのかなと思ってます」
小笠原は本業であるサッカーを忘れたわけではない。プロ15年目となる今季に賭ける思いは強いし、チーム一丸となってタイトル奪還に向かうつもりだ。それと同時に、震災復興活動も並行してやっていこうとしている。「練習や試合のない時を無駄に過ごしてるより、そういう活動をしてる方がおれの力になるからね」と言うように、本人もうまくメリハリをつけることができているようだ。
彼が痛感しているように、震災からの復興はまだまだ道半ば。ごく普通に暮らす人間はそのことを忘れがちだが、被災地には苦しんでいる人たちが大勢いる。震災発生から1年が経過した今こそ、彼らのために何ができるのかをあらためて考えるべきだ。小笠原のように具体的な活動はできなくても、その心意気に賛同し、協力することはできるはず。東北人魂の「グラウンド整備プロジェクト」がいち早く始動し、サッカー少年たちが元気にグラウンドを駆け回る日が来るように、われわれサッカーを取り巻く側もサポートの意識を持ちたいものだ。
<了>