「来年こそ特別な年に」若き速球王・由規の誓い=〜燕軍戦記2011〜VOL.9
「とにかく貪欲に」来季プロ5年目の由規投手 【ヤクルト球団】
そんな2011年、東京ヤクルトがセ・リーグのペナントレースで旋風を巻き起こしたのは、非常に意義深いことだったと思う。「POWER OF UNITY 〜心をひとつに〜」 というチームスローガンのとおり、心をひとつにして同じ目標に向かえば、強大な戦力を誇るチームに対しても対等、いやそれ以上に戦えるということを示したからだ。
バッテリーを組んだ亡き先輩に勝利を届けた由規
「今年は自分でも勝負の年と思って開幕したんですけど、ケガもあったりして思うようにいかなくて……。結果的に優勝を逃しましたし、自分の中ではすごく責任を感じています」
仙台出身の由規にとって、2011年は望むと望まざるとにかかわらず、重い十字架を背負わなければならないシーズンとなった。故郷は震災により甚大な被害を受け、家族は無事だったものの親戚には犠牲者も出た。そして……仙台育英高での女房役だった野球部の先輩も、帰らぬ人となってしまった。
その先輩の訃報が伝えられた4月27日、由規は悲しみを胸の奥にしまい込んだまま先発マウンドに上がった。試合前から降り出した雨が何度も激しさを増しても、集中力が途切れることはなかった。ストレートは最速154キロを計時し、1時間にも及んだ中断によって5回限りで降板を余儀なくされるまで、巨人の強力打線をわずか1点に抑えた。
「どうしても負けたくなかった。(ウイニングボールは)いつになるか分からないけど(先輩に)届けたいですね」
雨中の静岡・草薙球場で手にした今季2勝目は、兄のように慕った先輩への鎮魂の白星だった。
故郷・仙台で惜敗 印象的だった気持ちのこもった「力み」
この試合、立ち上がりから明らかに力みの目立つ由規は、初回にいきなり1点を失った。3年連続となる田中将大との投げ合いは、これまで1勝1敗。被災し、傷ついた故郷のため、失われた尊い命のため、そして若くしてこの世を去った先輩のためにも、どうしても勝ちたい試合だったはずだ。2回以降は息詰まるような投手戦となったが、同点で迎えた7回に飛び出した鉄平の適時二塁打で、決勝点は楽天に転がり込んだ。122球で最後まで投げ切りながら、由規の名は敗戦投手の欄に記された。
「初回に力みが出てしまうというのは、技術的な面よりも精神的な部分だと思う。そのあたりは気を付けないといけない。今日は本当に勝ちたかったです」
試合後、由規はそう話したが、実を言うと筆者にはその力みがうれしかった。由規にとって過去2回とは比べものにならないくらい、特別な思いが詰まった今回の凱旋登板。いやが上にも高ぶる気持ちを抑えきれないのは仕方がないことだ。そんな由規の気持ちのこもった「力み」を、先輩も天の上から微笑ましく見つめていたに違いない。由規が“約束”どおり4月27日のウイニングボールを先輩の霊前に届けたのは、その2日後のことだった。
「開幕投手を狙っていきたい」
「だからこそ来年はとにかく1年間ローテーションを守って、自分のやるべき仕事をしっかり全うしないといけないと思っています。今年のようにケガが出るっていうのはまだまだ体が弱いと思うので、このオフは体をつくり直していきたいと思っています」
今月5日に22歳の誕生日を迎えた由規は、14日の契約更改後の会見で「とにかく貪欲に。開幕投手を狙っていきたいし、目標を高く持って最多勝などのタイトルを目指したい」と、改めて来季への意気込みを語った。プロ5年目を迎える2012年、今度こそ「特別なシーズン」にするつもりだ。
<了>
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