「バルサ」の「サ」――カタルーニャにとってバルサが意味するもの

田澤耕

スポーツの域を超えたライバル関係

人気、実力共にサッカー界の頂点に立つバルセロナ。長い歴史の背景に観戦をより楽しくする要素があるようだ 【Getty Images】

 1936年に始まったスペイン内戦は、カタルーニャにも、バルサにも過酷な運命をもたらした。内戦は、左翼勢力が中心となって成立していたスペイン共和国に、貴族、地主、教会などの伝統勢力がクーデターを起こしたことから始まった。結局、ナチスなどファシズム勢力の支援を受けた、フランコ将軍率いる反乱軍側の勝利に終わる。

 戦後成立したフランコの独裁政権は、最後まで共和国側に立って抗戦したカタルーニャを徹底的に弾圧した。あらゆるカタルーニャ的なものが禁じられ、個人の名前さえ、スペイン語化が強要された。Xavier(シャビエー)はJavier(ハビエル)に、Jordi(ジョルディ)はJorge(ホルヘ)に、というように。もちろんバルサも標的になった。しかし、バルサはカタルーニャ主義を一時封印し、上層部にフランコ主義者を迎えることで、なんとか生き延びることができた。

 フランコ独裁政権が全面的な後押しをしたレアル・マドリードとの間のライバル関係が決定的になったのもこのころだ。例えば1943年の「総督杯」でのこと。マドリードで行われたレアル・マドリード対バルサの試合は体制側からの妨害と脅しによって、11対1という大差でレアル・マドリードの勝利に終わった。その時の悔しさは、バルサとカタルーニャにとってぬぐい去り難いものとなった。このように両チームのライバル関係は、スポーツの域を超えたものなのだ。

 バルサが本来の「カタルーニャのバルサ」という姿を完全に取り戻すことができたのは、1975年にフランコ総督が死去し、ようやくスペインが民主国家となった時だった。

 バルサは現在、人気、実力共にサッカー界の頂点にあると言っていいだろう。このような文化的、歴史的背景を知った上でその試合を観戦すれば一層、楽しみが増すのではないか。また、レアル・マドリードとの因縁の試合の応援にも熱が入るだろう。


<了>

『素顔のバルサ』(経済界)

『素顔のバルサ』(経済界)著者:シャビエー・トラス、サンティ・パドロー 翻訳:田澤耕 【経済界】

バルセロナの内幕や選手の内面を知るのに格好の本がこのたび出版された。それが『素顔のバルサ』だ。これはカタルーニャのテレビ局の人気番組『ハット・トリック・バルサ』でのインタビューをまとめたもの。この本を読めば、バルサのロッカールームの雰囲気、選手と監督の関係、選手の恋愛や日常生活など、普段なかなか知ることのできない部分を垣間見ることができる。しかも、写真が素晴らしい。超絶プレーばかりでなく、選手の人間性がにじみ出ている写真が満載。バルサ・ファン必読の一冊である。

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著者プロフィール

法政大学国際文化学部教授。1953年生まれ。一橋大学社会学部卒、バルセロナ大学博士課程修了、文学博士。カタルーニャ語、文化専攻。2003年、日本・カタルーニャ文化の相互紹介の実績により、カタルーニャ政府からサン・ジョルディ十字勲章を授与される。主な著書に『物語カタルーニャの歴史』『ガウディ伝』(共に中公新書)など

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