女子短距離、急成長の市川華菜が秘めた可能性とは!? =陸上日本選手権・第2日

高野祐太

大学で急成長 「世界を意識し始めたのは今年から」

後半の爆発力と度胸を武器に、これから市川はどのような走りを見せてくれるのか 【photo by 原田亮太】

 市川は、高校まで全国に名をとどろかせるような選手ではなかった。中学では、基本が身に付いていない「すごく汚いフォーム」だった。中学3年で出会った指導者に陸上のいろはを教わり、200メートルへの適性を見出されてからようやく、東海地区レベルの実力を付けた。岡崎城西高(愛知)にも「部活はほかのスポーツでもいいかな」というくらいの気持ちで入学したが、友人に誘われてやっぱり陸上を続けた。3年でやっとインターハイの決勝に残ったが、決して目立つことはなかった。

 だが、名門の中京大に進学し、青戸慎司コーチと出会ってからメキメキと頭角を現す。ときに「ウエート祭り」というほどのメニューで肉体改造に取り組み、筋力強化と体重管理に成功。初めての海外遠征となった昨季の世界ジュニア選手権では200メートル8位、世界のファイナリストになった。そして、今季は、左ふくらはぎけいれんによる福島不在の決勝となった4月29日の織田記念陸上女子100メートルで、追い風参考ながら11秒28の好記録で日本人1位に。そして、5月8日のゴールデングランプリ川崎の4×100メートルリレーで代表チームのアンカーに抜てきされ、43秒39の日本記録達成の立役者となった。

「高校までこんな風になるとは全然思っていませんでした。世界を意識し始めたのは、今年になってからと言っても過言ではありません」とユーモアたっぷりに笑う。スプリンターとしての才能に自分で気付くのも間に合わなかったほどの急成長ぶりだったという訳で、大学からの2年ちょっとで一変できるあたりにスケールの大きさを予感させる。

外国人選手にもひるまない度胸を持ち合わせる

 高いレベルなのは、走りだけではない。外国勢とまみえたときにもひるまない度胸が満点なのだ。青戸コーチが言う。
「外国選手と走っても全然委縮しないところが良いです。世界ジュニアの4×400メートルリレーのときも食らい付いて、抜いてやろうという気持ちで走った。初の海外でも物怖じしないところがあれば、多分、世界選手権や五輪に出ても普段通りの動きができるのではと思います」

 言葉の通じない、異文化の人とコミュニケーションを取るのにも躊躇(ちゅうちょ)はない。市川は「英語は勉強中なんですけど、外国人の友達がたくさんできちゃいました(笑)。(織田記念で市川に先着して優勝した)メリッサ・ブリーンさん(オーストラリア)とも、こっちは日本語、向こうは英語で話しました。きれい過ぎてびっくりして、一緒に写真を撮っちゃいました。いろんな大会で一緒にがんばりたいです」と屈託がない。

 青戸コーチはかつての東ドイツの名選手を念頭に、世界への挑戦に思いをはせた。「五輪で上を目指すには、英語も勉強して、どんどん海外レースに出て行って、コミュニケーションを取れることが大事。そして、昔、活躍したマリタ・コッホの走りが(理想形として)1つ頭にあります。彼女のような正確でブレのない走りをできるようになってほしいですね」

 まだ20歳の若さであり、追い込んだ本格的な練習をやり過ぎていないことも良いかもしれない。これからの活躍に期待したい。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント