宮里藍、“もう1人のAI”との戦い=17日開幕、米女子ゴルフツアー展望

宮下幸恵

「理想はいつまでたっても理想」

昨季は日本人最多記録となる年間5勝を挙げた宮里藍。さらなる高みを目指す新シーズンがいよいよ開幕する 【Getty Images】

 2010年シーズンは宮里藍にとって忘れがたいシーズンとなった。44年ぶりの開幕連勝に始まり日本人最多の計5勝。日本人選手として初めて世界ランキングで1位に立ち、中盤戦までは賞金女王、年間を通じた活躍が求められるプレーヤー・オブ・ザ・イヤー(年間最優秀選手)とタイトル争いを引っ張った。そう中盤戦までは……。
 甘美な勝利の味に酔ったと思えば、すぐにトップから落ちる日々。波が激しく、技術そのものを客観的に示す部門別スタッツで米ツアー初勝利を挙げた2009年を上回ったのは、パーオンしたホールでの平均パット数(1.73、1位)だけ。結局、賞金ランクは6位に留まり、頂点に立ち続ける難しさ、厳しさを痛いほど味わった1年でもあった。

 頂点に立ち続けるには何が足りなかったのか。昨年12月の最終戦では「ここで詳しくは話せないけど」とかわし心の内を隠そうとしたが、「自分の状況だったり、自分の理想だったり、そういうものの間で自分を追い詰めるようなところが何度かあったし、そういう時はうまくいかなかった。自分の理想より、現実で今必要なものは何か、自分が生かせている部分は何かが見えず、時々は自分を見失うところもあった」と言う。コーチで父の宮里優さんは「優勝した後は、やっぱりもっといいゴルフをしようと無意識に思ってしまう」と心の揺れを指摘。メンタル面が大きくプレーに影響するだけに、自分に期待し欲が出る“もう1人のAI”と決別し、いかに今、目の前の1打に集中できるか、それを毎ショット積み重ねていけるかが鍵になる。
 
「理想はいつまでたっても理想。目標にきりがないのはゴルフのいいところだけど、求め過ぎてもいけない」

 時に宮里藍が修行僧のように見えるのは、ふつふつわき出る欲をコントロールしているからだろう。口癖のようになっている「目の前の1打に集中する」ことをシーズン通して貫けば、悲願のメジャー制覇も見えてくる。

 もう1人、今季飛躍が期待されるのが米ツアー参戦3年目となる宮里美香だ。昨季序盤は苦しんだが、メンタルコーチのクリスチャン・スミス氏の「エンジョイゴルフ」を合い言葉に開眼。「I have to〜」「I need to〜」と考えるのをやめたことでプレッシャーと上手に付き合えるようになり、10月に日本ツアーの最高峰「日本女子オープン」でプロ初勝利を挙げた。プロゴルファーにとって、結果でしか手に入れることのできない自信を得たのは大きい。その自信を胸に、米ツアー初勝利を目指す“3年目の正直”に挑む。

W宮里の前に立ちはだかる強力なライバルたち

 飛躍を期す2人の宮里の前に仁王立ちするのは、現在世界ランキングで激しくトップ争いを繰り広げるヤニ・ツェン(台湾)と申ジエ(韓国)だ。今月、豪州で行われた欧州女子ツアーで連勝したヤニ・ツェンは、申ジエを抜いて初のランクトップに浮上。オフには英会話のレッスンを受けるなど、米女子ツアーの女王となるべく努力を惜しまない。爆発力があるだけに、今季も一度勢いに乗ると手が付けられなくなりそうだ。
 ツェンに抜かれた申ジエだが、安定感は抜群。黒ぶち眼鏡がトレードマークだったが、昨年12月に韓国で視力矯正手術を受けると、長年指導を受けた豪州人コーチと別れ、12月中旬には自ら米国人コーチ、グレン・ドハティー氏にラブコールをかけて指導を仰ぐことに。すでに今年に入りドハティー氏が拠点とする米カリフォルニア州パームスプリングスで合宿を張り、3月にもミニ合宿を行う予定。ベストの状態で今季を迎えるべく鍛錬に余念がない。

 さらに、米国人として初めて世界ランク1位に立ったクリスティ・カー、昨年全米女子オープン覇者のポーラ・クリーマーら米国勢に加え、新人ながら昨年初勝利を挙げた美人プロのベアトリス・レカリ、昨年新人王に輝いたアサハラ・ムニョスのスペインコンビも注目株。ストップ・ザ・アジア勢に燃える欧米勢からも目が離せない。

 誰が笑い、誰が涙し、誰がシーズンを終えてトップに立っているのか――。選手の様々な思いが交錯する2011年シーズンがいよいよ17日、灼熱のタイで幕を開ける。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

サンケイスポーツを経て、2006年からフリーに。米女子ツアーを中心にバンクーバー五輪も取材し、新聞、通信社、ネットメディアに幅広く執筆(Twitterは@m_sachi)。2011年にニューヨークで第一子出産し子育て分野にも挑戦。ヤフージャパンで「NY発 子育て新常識」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/miyashitasachie/)を連載している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント