戦国時代に入った米女子ゴルフツアー=『女王』に求められるものとは……
『追われる立場』から『追う立場』になった宮里藍
1週間で世界ランク1位陥落となった宮里藍。真の女王に求められるものとは? 【Getty Images】
初日から首位を走るクリスティ・カー(米国)が通算19アンダーまで伸ばす圧勝で逃げ切ると、大ギャラリーから自然と「USA!USA!」の大合唱が沸き起こる。米国人ギャラリーにとっては待ちに待った自国クイーンの誕生。それは、同時に日本人女王の陥落も意味していた。
宮里藍が世界ランク1位を守るには単独2位が必要だった。「今朝、(条件を)知ったんです。それでも構わないし、自分のベストを尽くすだけ」。首位と14打差からスタートし、7バーディー(1ボギー)を奪い猛チャージ。一気に上位争いに加わるも、3位タイで終えランキングでは『追われる立場』から『追う立場』になった。
女王として迎えた初メジャーは小さなプレッシャーの連続だ。大会前の公式会見から米国人記者にも注目され、ティーオフでは「ワールドランキングナンバーワン」と紹介される。「目の前の1打に集中する」ことがモットーなのに、「知らないうちに疲れがたまったのかもしれない」、「いろんな人が私に気付いてくれるようになって声をかけてくれたり周囲の状況がすごい変わるな、というのが正直なところ。いろんなことをこなしていきながら、自分のことをやらなきゃいけない」。第2日のラウンド中には腰に「違和感」を覚え痛み止めを飲む場面も。予選ラウンドでの低空飛行の成績に、日本人記者から予選落ちした今季メジャー初戦クラフト・ナビスコ選手権の話題が飛ぶと、「リマインドしてくれてありがとうございます」。すぐさま笑って「冗談ですよ」と付け加えたが、負けず嫌いの本音がこぼれた。
ゴルフ以外にも求められる「女王の品格」
シャンパンシャワーの余韻を残しV会見に臨んだカーは「ナンバーワンであることは?」と問われると、「抽象的だけど……」と前置きしながら、『女王像』を語った。
「自分のポジションに感謝し、恩返しをしていくこと。会見に来る前に雨のなか待ってくれるファンにサインをして来たり、正しいことをすること。自分を高めていけば、周りの人も自分を尊敬してくれるし、周りの人も自分を高めていける」。
カーにとっての恩返しとはライフワークとなっている乳がん撲滅のためのチャリティー活動だ。2003年に元水泳選手だった母が乳がんを患ったことがキッカケとなり「苦しんでいる誰かのために」と活動をスタートさせた。バーディー1つにつき50ドル(約4500円)を積み立て、寄付金を募るイベントも主催する。今春には趣味を生かし、収益のすべてが寄付に回るワイン事業を始めた。その発表会見の場、シンプルな黒のスカート姿で自らボトルを手に「ワインはいかが?」と微笑む姿に、コース内で見る“ファイター”の険しさはなかった。
カーだけではない。引退したオチョアは現役時代から母国メキシコに恵まれない子ども達のための学校を作り、宮里に世界ランク1位の座を奪われた申智愛(韓国)は、韓国の子供病院に寄付するため自ら歌ったCDを作成した。女王として誰からも愛され、尊敬される理由はこういうところにもある。
一方の宮里は、「将来的にはゴルフを通じて社会に貢献したい」と語るも、まだ自分のことで精いっぱいなのが現実。ただ、「アニカ(ソレンスタム)もロレーナ(オチョア)も最初のステップがあったわけだし、自分で結果を受け止めてやっていけば、自分なりのプレーが確立できるはず」。25歳になったこの夏、初めて「ナンバーワンであること」の意味を考えた。「今の自分でナンバーワンでもいいんだと思った」ことから、自分のなかへ向けられた視線を、外の世界に向けるときが来るかもしれない。真の女王が女王たるゆえん、それはゴルフそのものの数字だけではない。
<了>
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