川口能活、追い込まれるほど力を見せる不屈の守護神

前島芳雄

海外移籍と不遇の時代

 しかし、初出場した98年のフランスW杯では、3試合すべてにフル出場したが、全敗という苦い結果に終わる。その後代表では1歳下の楢崎正剛が成長してし烈な正GK争いを繰り広げるようになったが、2000年のAFCアジアカップ(レバノン)では、強い日本代表を印象づける戦いぶりを後方から支え、優勝に大きく貢献した。
 01年には、横浜FMからイングランドのポーツマスへ移籍。日本のGKとしては初の海外移籍を果たした。だが、コミュニケーションの問題などから出場機会になかなか恵まれず、代表でも楢崎にポジションを奪われることが多くなった。02年の日韓W杯にもメンバー入りしたが、出場機会がないまま大会が終了。この時は、彼自身にもベンチからチームに貢献するという余裕はあまりなく、親しい人には出場できない悔しさを爆発させたこともあったという。

 この時期が、川口にとってはもっとも不遇の年月だったが、彼自身は「海外で成功するまで日本には帰らない」という意志が強く、03年にはデンマークのノアシェランに移籍。しかし、ここでも出場機会には恵まれなかった。それでも、04年に中国で行われたAFCアジアカップでは全6試合に出場し、日本に向けられた激しいブーイングの中でゴールを守り抜いて連覇に貢献。ここでもPK戦などで神懸かり的セーブを見せ、クラブでの出場は少なくとも実力を維持していることを示した。

 そして04年冬にジュビロ磐田への移籍を決断して、ついに帰国。それまでGKが泣きどころだった磐田に最後尾の安定感をもたらし、代表でも正GKの座をつかんでドイツW杯の出場権獲得にも大きな働きを見せた。
 06年のドイツW杯では全3試合に出場。クロアチア戦ではPKを止めるなど、どの試合でもビッグセーブを見せたが、チームは1分2敗でグループリーグ敗退。川口自身のW杯初勝利は、3回目の参加でも果たせなかった。

日本のために、チームのために

 ドイツ大会後に就任したオシム監督の下でも、守護神としてキャプテンとしてチームを率いていたが、岡田武史監督の下では08年に楢崎にポジションを奪われ、ベンチに甘んじる状況が続く。そんな中で、09年9月の京都戦で相手との接触により右足の頸骨を骨折。全治6カ月と診断され、今回の南アフリカW杯は絶望と見られていた。

 それでも川口は希望を失うことなくわずかな可能性に懸けて、彼らしくストイックにリハビリに励んできた。その努力もあって順調な回復を見せ、今年の鹿児島キャンプの時点では、ピッチ上でフィジカル中心のトレーニングができるようになっていた。コメントでも常に前向きの言葉を口にし、本人のもくろみよりも時間はかかったが、一歩一歩着実に歩を進めて10年4月25日の練習試合で、ついに実戦復帰を果たした。

 ヤマザキナビスコカップ予選リーグでの公式戦復帰を目指していた中、南アフリカW杯の日本代表メンバー発表前日の9日夜、岡田監督からの電話を受けたという。
「力を貸してほしい」。その場で即答するのは躊躇(ちゅうちょ)したが、妻の「行ってきなよ」という声に背中を押されて、3時間後に「日本のために、監督のために頑張ります」と岡田監督に強い決意を伝えた。

 10日の緊急会見でも、「チームの雰囲気を感じ取っていろいろな選手に話しかけ、みんなが同じ方向を向けるようにしたい。経験をみんなに伝えていきたい」と、岡田監督の期待に応えるような言葉を口にした川口。さまざまな経験を経て4回目のW杯に挑むことになった今回は、02年のときとは違う立場と意識でチームに貢献できる境地に達している。
 もちろん、「多くの選手がW杯を目指して戦っている中で、自分が選ばれた責任がある。その責任を全うして本大会にはベストな状態で臨めるように準備していきたい」と、試合出場に向けても意欲十分。残り1カ月で試合勘を整え、正GK争いにも彼らしく最後まであきらめることなく挑んでいくことだろう。

<了>
川口能活
Yoshikatsu KAWAGUCHI [ジュビロ磐田] GK
1975年8月15日生 180cm/77kg
・前所属チーム:清水商高−横浜F・マリノス−ポーツマス/イングランド−ノアシェラン/デンマーク
・Jリーグ初出場:1995/04/26 1995Jリーグサントリーシリーズ 第11節 横浜M(vs柏@国立)

提供:ISM

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著者プロフィール

1964年、静岡県生まれ。スポーツ専門誌の編集者を経て、95年からフリーのスポーツライターに。サッカー、テニス、スキー、スノーボードなどさまざまなスポーツを取材して、技術解説の畑でも豊富な経験を持ち、選手の特徴やチーム戦術をわかりやすく分析・解説することも得意分野のひとつ。現在は地元の藤枝市に拠点を置き、清水エスパルス、ジュビロ磐田、藤枝MYFCなど静岡県内のサッカーチームを中心に取材活動を展開。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」やさまざまなサッカー専門誌に、硬軟織り交ぜた文章を寄稿している。

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