宮里藍、涙の予選落ちの影にあったプラス1秒の進化=クラフトナビスコ選手権

宮下幸恵
 マスターズが“男子ゴルフの祭典”なら、“女子ゴルフの祭典”はクラフトナビスコ選手権だろう。コースが持ち回るほかのメジャー大会とは違い、毎年米国カリフォルニア州にあるミッションヒルズCCダイナショアCで行われ、優勝者は18番グリーンサイドの池に飛び込むウィニングダイブが恒例だ。多くの選手が「自分ならどこから誰と、どう飛び込もうか」と夢を描き、努力を重ね、モンスターコースに挑んでは跳ね返される。

 そんなドラマが起こるなか、2010年春に流した宮里藍の涙もまた、1つのドラマだった。

2日間で7オーバー。パットに苦しみ予選落ち

米女子ツアー開幕2連勝で注目を集めた宮里藍だったが、無念の予選落ち。コーチに声をかけられると、その目から悔し涙がこぼれ落ちた 【Photo:日刊スポーツ/アフロ】

 米女子ツアー(USLPGA)で44年ぶりに開幕2連勝を飾り、V候補の一角として乗り込んだ今季メジャー初戦。しかし、予選2日間ともグリーン上で苦しみ通算7オーバー。第2日の18番(パー5)で1メートルのパーパットを沈めていれば予選突破だったが、「打った瞬間、芯を外れていた」。あっけなくこれを外し、6度目の出場で初の予選落ちに終わった。

「今までギリギリで予選通過を繰り返していたので、ここらへんで自分がやるべきことをリマインドする結果だととらえています。自分をコントロールすることはまだまだ勉強不足。2連勝? タイもシンガポールも数億年前に終わったことのように感じている。もう過ぎたことですから。影響があるとかないとか、そういう問題じゃない。スムーズなグリーンでも入らなかったのは自分にも問題があるかもしれないし、それはこれから解決したい」

 取材中は笑顔も交えて話していたが、ひとたび輪から離れ、メンタルコーチのピア・ニールソン氏から言葉をかけられると、涙がワッと溢れ出た。「本音が出たかな」。遠くで見守る父の宮里優さんがポツリとつぶやいた。

よりゆっくりになった、宮里のスイング

 USLPGAが米本土に戦いを移した「キアクラシック」から1つ気になることがあった。宮里といえば、ゆったりとした大きなスイングアークが特徴だが、そのスイングがさらに遅くなったようなのだ。ルーティンと呼ばれるショットに入る前の動作が、いつも計ったように「13秒」だったのが、手元の真新しいiPhoneのストップウォッチでは「14秒」に。(メディアはコースで携帯を持ち歩けるのです、ギャラリーの皆様、あしからず…)
 開幕前の練習ラウンドでは、ゴルフカメラマンを困らせる場面も。スイングの連続撮影をしようとしたカメラマンたちは1スイング3秒の設定で撮影しようとしたが、3秒に収まらず、カメラの細かい設定を急きょ変えなければならないほどだった。ミシェル・ウィー(米国)の男勝りのスイングなら2秒強。昨年まではギリギリでも3秒に収まっていたのだから、どれほどゆっくりしたテンポなのかが分かる。

 宮里が4歳の頃からスイングを作り上げてきた優さんはこう解説する。

「ルーティンもスイングもさらにゆっくりになった? そうかもしれないね。(1、2月の)合宿のとき、初日に見たときはスイングが完ぺきにできていて、『ワオ!』と言ったのよ。『オレ、帰ろうか?』って。それが2日目になったら崩れてて、どうしたもんかと。リン(・マリオット=メンタルコーチ)とピアと3人でスイングを見ていたら、リンが『バックスイングでほんの少し、右手に力が入ってるんじゃないか』って気付いた。ゆっくり振るようにしたら、ずいぶんよくなりましたよ。バックスイングの力感がなくなって、トップでいいタメが作れている」

予選落ちの悔し涙も、次への飛躍のチャンス

 史上初の開幕3連勝がかかった「キアクラシック」前には、全米で唯一の全国紙「USA TODAY」に特集が組まれ、「the most unhurried swing tempo」と、直訳すれば「最も急がないスイングテンポ」と評された。1メートル55と大きくない体で米ツアーを戦うには、自分の武器を誰にも負けないように磨くしかない。数字上では、ほんのひと呼吸の間。それが進化を示すものでもあった。
 
 宮里の悔し涙を間近で見ていた上田桃子は、「開幕から2勝した人が予選落ちするなんて、誰も考えてなかった。これがゴルフ。それに気付いた藍ちゃんは、一回りも二回りも強くなるんだと思う」と話した。悔し涙は飛躍のチャンス。長いシーズン、リベンジの機会はいくらでもある。自分の弱さを見つめ努力し続けることができるのが、宮里の強さなのだから。

<了>
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著者プロフィール

サンケイスポーツを経て、2006年からフリーに。米女子ツアーを中心にバンクーバー五輪も取材し、新聞、通信社、ネットメディアに幅広く執筆(Twitterは@m_sachi)。2011年にニューヨークで第一子出産し子育て分野にも挑戦。ヤフージャパンで「NY発 子育て新常識」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/miyashitasachie/)を連載している。

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