G大阪、不調にもがくアジア王者の姿=西野政権が直面する危機

下薗昌記

さらなる爆発が望まれるレアンドロ

カウンター戦術を取り入れて以降、チームは調子を取り戻しつつある 【写真は共同】

 試合後にサポーターが居残った清水、横浜FMの2試合では、相手のカウンターに淡白に失点するさまが強く印象に残っているために守備陣の問題と見られがちだが、やはりG大阪は攻撃力で守備力を補うチーム。「今はどの組み合わせがベストか分からない」と西野監督も頭を悩ませるように、軸となるレアンドロのパートナーを決め切れないところが、現状につながっている。

「つながれても怖くないと思われている。ボールを持たされている」(西野監督)。圧倒的なボール支配率と18対8というシュート数が、スコアでは一転して1−4の敗北となった清水戦に象徴されるように、ポゼッション率は得点につながってこそ初めて意味を持つ。立ち直りの気配を見せ始めて挑んだ8月2日のモンテディオ山形戦でも先制しながら、その後の決定機を生かし切れず、1−1のドロー。相手を4倍以上上回る22本のシュートがわずか1点にしか結びつかない状況だ。セレッソ大阪を率いた当時からG大阪の圧倒的な破壊力を知る敵将の小林伸二監督は「ここ何年かに比べると、決定的なところの精度が低い」と指摘する。

 得点ラングのトップに立ち、多くの試合でチームを救ってきたレアンドロには酷かもしれないが、初優勝の立役者となった2005年のアラウージョ、最終節まで優勝争いに絡んだ06年のマグノ・アウベスといったブラジル代表経験を持つスペシャルなFWと比較すると、レアンドロはまだ「いいFW」の域を抜け出していない。
 データも物語る。在籍当時、上位4チームとの計8回の対戦中、アラウージョは6試合で得点し、9ゴール。マグノ・アウベスは4試合で得点し、6ゴールと上位との対戦で真価を発揮している。対照的にレアンドロは今季の上位5チームとの対戦でまだ1点も奪っていない。24歳とまだ伸びしろを残す背番号23が、8月以降に残す上位勢との対戦で爆発することなしに、G大阪の巻き返しはあり得ない。

「うまさよりも速さ」に不調からの打開策を見いだす

「流れの中で先手を取れない。オレがスタイルに固執しすぎている部分があるのかなと思う」
 頑固と言えば聞こえは悪いが、西野監督の良さの一つが、どこかの国の総理大臣には無縁のブレのなさ。「今のサッカーで打開したい」とあくまでも自らのスタイルにこだわってきた指揮官だったが、ホーム6連敗を機に、「現実路線」へと舵を切った。

「ガンバ大阪へ声援を送っていただいているファンの皆さまには、期待にお応えする結果が出せず、大変申しわけなく思っています」
 2度にわたるサポーターの居残り騒動を受け、7月17日、クラブ公式サイトで異例ともいえるリリースを発表。メッセージの主である西野監督は「ガンバ大阪のスタイル、そして柱であるパスサッカーを継続する中で、『選手の心』、『人の動き』、『ボールの動かし方』というさまざまな動きに変化をつけ、この状況を打破する戦いを見せていきたいと思います」と締めくくった。

 明確な変化が表れたのが7月19日の柏レイソル戦だった。うまさよりも速さ――。日本では弱者の戦術と受け止められがちなカウンター攻撃だが、07年までのG大阪はポゼッションとハーフカウンターのバランスが絶妙なチームだった。「手数をかけすぎると相手も引く。今はパスの第一の選択をまず裏へ、そして縦一本と意識している」と明神智和が振り返るように、いわゆる「縦ポン」を選択する場面が増加。カウンターにうってつけのレアンドロが2得点し、リーグ戦3連敗にピリオドを打ったのも決して偶然ではなかった。
「結果が今一番大事なので、割り切っている」(山口智)。さらに明確な「縦パス」が配給されるようになった7月25日の大分戦と、アウエーゴール方式で敗退はしたものの、引いて守る相手を崩した29日のナビスコカップの横浜FM戦、G大阪は公式戦3連勝を飾った。

 山形戦では課題の決定力に泣いたものの、遅まきながらチーム状態は底を打った感がある。ただ、連勝した相手はいずれも優勝に縁がない下位チーム。5月の中断期間前に指揮官が「鹿島しかり、浦和しかり、守備力のあるチームを崩せないということは、リーグを三分の一終えた段階で分かったこと」と振り返ったように今季、上位5チームとの対戦では攻撃陣が沈黙し、1分け4敗。しかも辛うじて5位の清水から1点を奪った以外は、すべて完封で敗れている有りさまだけに、チームの真価が問われるのは上位との対戦だ。

 1シーズン制になってからの逆転優勝としては05年にG大阪が鹿島に開けられた勝ち点12差が過去最大。勝ち点14差で鹿島追撃を試みるG大阪は、いよいよ15日に宿敵の浦和レッズをホームに迎える。くしくも2年前の同じ日、首位を独走しながら赤い悪魔に敗れたことで、その後、失速した大阪の雄は、今年、その逆の軌跡をたどれるのか――。

<了>

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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