NFL“ドラ1”候補のメジャー挑戦第1歩

近藤祐司

二兎を追う者が二兎をも得る!?

カブス期待の新星・サマルジャ。大学時代は野球とアメフト両方で活躍し、どちらでもプロへ進める実力を見せた 【Getty Images】

 スプリングトレーニング中、カブスが本拠地としているホホカムパークの外野フィールドで、ランニングを行っている若手投手陣の中、一人際立って速く走る選手が目に飛び込んできた。

「ジェフの体力は投手陣の中では群を抜いています。彼だけ練習が物足りなそうなので、別メニューを考えようと思っているくらいです」

 カブスのデータアナリストで、昨年までマイナーリーグを統括するストレングス&コンディショニングのディレクターを務めた正木尚人氏は、ジェフ・サマルジャ投手(23歳)のケタ外れた運動能力に舌を巻く。

 日本ではまだ無名だが、サマルジャはことしプロ3年目の球団トッププロスペクト(若手有望選手)である。カブスのスプリングトレーニングは今季、福留孝介の加入で盛り上がっているが、その陰でメジャーデビューを目指して一心不乱に練習に取り組んでいる姿に私の関心は傾いた。

 サマルジャは、アメリカンフットボールの名門として知られるノートルダム大で、野球とアメフトの両方を続けたマルチアスリートである。日本では“二兎を追う者は一兎をも得ず”と指導者に非難されそうなものだが、サマルジャはアメフトでは大型俊足レシーバーとして全米代表に選ばれ、野球でも鍛え抜かれた体(196センチ、100キロ)から繰り出す力のあるストレートを武器に、1年時から先発投手として全米にその名を轟(とどろ)かせた。

肩の強さをメジャーで生かしたい

 米国や中南米のプロアスリートは、サマルジャのように子どものころから複数のスポーツを本格的に取り組んでいる選手が数多くいる。今オフ、メッツに移籍したサイ・ヤング賞左腕のヨハン・サンタナはサッカー、ヤンキースの主砲アレックス・ロドリゲスがアメフト、2005年の首位打者でカブスのデレック・リーはバスケットボール……と例を挙げればきりがない。むしろ、野球一筋でメジャーリーガーになったケースが珍しいくらいである。

 そこで、複数のスポーツを経験したことがキャリアにどのように活かされているのか、スプリングトレーニングで汗を流すサマルジャに聞いてみた。

「さまざまな筋肉を鍛えることができて、常にいいコンディションを保てた。それに、いろいろなスポーツで実戦経験を積めたから、競争意識が高まったと思う」

 好奇心が旺盛な人間だと自認するサマルジャが2つのスポーツを続けた理由については、「幼いころに1つのスポーツだけに絞るのは、僕にとっては酷だった。自分がどのスポーツに向いているかをなかなか判断できなかったんだ。1つのスポーツに絞って早くプロになれればいいけど、バーンアウト(燃え尽き症候群)する選手もたくさんいるからね」と語る。

 大学時代、ドラフト1巡目候補としてNFL(米ナショナル・フットボールリーグ)のスカウトからも熱烈なラブコールを受けたが、最終的にメジャーリーグを選択した理由についてはこう説明してくれた。

「いろいろな人に相談した結果、野球が一番自分の可能性を広げてくれると感じたんだ。子どものころから肩が強いとコーチに言われ続けていたからね」

「こっち(米国)の選手は、いろいろなスポーツを経験している選手が多いので、プロ入団時にすでに体ができている選手がとても多いですよ」と前述の正木氏。さらに、「複数のスポーツを経験しているバッターは、ハンドアイコーディネーション(手と目の協応運動)などの神経系の発達もいい。投手なら、肩の消耗が野球だけをやってきた人より少ないんです」と、メリットを説明してくれた。

順調なら今シーズン中にもデビュー

 大学3年生のときにカブスにドラフト指名(5巡目)を受けながらも4年生のフットボールシーズンを過ごしたサマルジャは、ことし人生で初めて野球だけに集中している。オフに課題と言われた「緩急をつけた投球」に取り組み、大きく成長した姿はコーチ陣の期待をますます高めた。

 カブスのルー・ピネラ監督も、サマルジャの成長に目を細める一人だ。「ジェフは完ぺきなアスリートだよ。このオフにオフスピードピッチに磨きをかけて、プロの投手らしくとてもスムーズになってきたのを感じる。今はプロに入っていろんなことを吸収している大事な時期なんだ。順調にいけば、今シーズン中にメジャーデビューを果たせると期待している」

 サマルジャもそれに応えるように意気込みを語る。

「ことしは全精力を野球に注いで、自分の課題だったシンカーやチェンジアップにじっくり取り組むことができている。実戦で打者相手に投げるのが楽しみだよ」

 日本人も注目するカブスのスプリングトレーニングで、ひときわ輝いていた“ジェフ・サマルジャ”という名の蕾(つぼみ)は、近く開花の時期を迎える。カブスの試合を観戦するときは、福留と一緒にぜひともチェックしてほしい選手である。

<了>
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著者プロフィール

1974年1月21日生まれ、京都市出身。立命館大学パンサーズ時代にアメリカンフットボール日本代表に選ばれた経験を持つ。長年の在米経験で得た英語力を武器にした海外取材力は、専門記者をも圧倒。豊富な知識と現地情報を同時通訳する実況で、アメリカンフットボールのみならず、野球、ロードレースなど多くの分野で活躍している。日本では数少ないスポーツ専門のアンカーマン

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