ハンマー投げの室伏、2大会連続で繰上げでのメダル獲得

及川彩子

米国反ドーピング機関の「My Victory」

北京五輪銀メダリストのダラ・トレス(左端)も米国反ドーピング機関の「My Victory」にボランティアで参加 【Getty Images】

 そのほか、米国反ドーピング機関(USADA)は、国内の各スポーツのトップレベルにいる選手から協力を仰ぎ、「My Victory(マイ・ビクトリー:http://www.usantidoping.org/MyVictory/)」というプロジェクトを行っている。陸上では、タイソン・ゲイ(2007年世界選手権3冠)、アリソン・フェリックス(北京五輪200m2位、4×400mリレー1位)、ブライアン・クレイ(北京五輪10種競技1位)、トロッターなど5選手、水泳では 北京五輪で金メダル8個獲得という歴史的な活躍をしたマイケル・フェルプス、41歳でメダル獲得したダラ・トレスなどがボランティアで参加している。彼らはシーズンオフにUSADAから定められた一定期間(2〜3週間)の間に、尿検査と血液検査を数回受けなければならない。
 練習の合間を縫って、指定された場所へ赴き検査を受けることに、「いろいろな意味で、負担だ」とクレイは言う。クレイは10種目の練習を行わなければならないほか、家庭に戻れば2児の父親として果たすべき役割もある。だが、「みんなに、自分がクリーンだということを証明できるチャンスだと思ったので、喜んで協力することにした」とも言う。

 米国の陸上界は、2000年シドニー五輪以降、ドーピング問題で揺れてきた。マリオン・ジョーンズ、ティム・モンゴメリ、ジャスティン・ガトリンとトップ選手が次々と薬物使用で資格停止になった。陸上の話題は、イコール薬物に関わるスキャンダルとなり、無実の選手たちにも大きな影響を及ぼした。

 クレイは、「(陽性反応で資格停止になった選手は)黙って、この世界から消えればいいのに、テレビに出て『知らなかった』とか『コーチが……』などとベラベラと話す。そういう風にテレビや新聞に出ることが、今、現役で頑張っている僕たちにどんな悪影響になるかなんて気にもしない。はっきり言って迷惑だ」と怒りをあらわにする。
 米国では、このようなアンチ・ドーピングに関する意見が大きく取り上げられることはまだまだ少ないが、一人一人の選手が「ドーピング問題」に関して意見を言える環境になってきていること、そして選手、団体の意識は、徐々にではあるが確実に高まってきている。

日本に求められる役割

 室伏の2大会繰上げメダル獲得をきっかけに、日本は、「アンチ・ドーピング活動」をもっと積極的に展開していってもいいのではないかと思う。日本選手は、外国選手の薬物使用による被害者になることはあっても、加害者になることは、まずないと言える。
 カール・ルイスを指導し、現在も日本の若手選手を教えるトム・テレツ氏は「日本人は、恥を知っている。日本選手は絶対に薬物など使わない」と断言している。日本選手の勤勉さ、誠実さなどは世界でも知られるところだ。

 それと同時に、ドーピング問題、そして薬物使用に対する意識をもっと高めてほしいとも思う。今年、春先に米国で行われた大会の際に、日本のトップレベルの選手がエナジードリンクを口にしていたのを見かけた。米国のトップ選手は、カフェインの過剰摂取を嫌って、コーヒーやコーラも飲まない選手もいるため、正直、驚かされた。
 エナジードリンクは禁止薬物ではない。しかし、米国の専門家の中では、疑問を呈する人もいる。疑われるようなことは避ける、というスタンスの選手が米国に増える中、日本選手の意識の低さを象徴付けるような出来事でもあった。
 ドーピング問題を改めて考え、意識を高めていくこと。そして国内はもちろん、アンチ・ドーピングを世界へ発信していくことも、これからますます重要になっていくだろう。

<了>

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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