全米3連覇のフェデラーのすごみ=全米オープン

武田薫

タイガー・ウッズが最前列に

試合前、タイガー・ウッズ(左)の激励を受けたフェデラー 【Getty Images/AFLO】

 観客席に珍しい顔があった。ゴルフ全英オープンを含め、目下5連勝中のタイガー・ウッズ(米国)がロジャー・フェデラー(スイス)の家族席の最前列に陣取っていた。特に友だち関係があったわけではなく、初対面。同じ代理店つながりというわけだが、世界のスポーツの先端を行く存在として互いに意識する仲だったという。「タイガーから、決勝に勝ち進んだら行くと連絡があったので、ちょっとプレッシャーだった」と試合後に明かしたフェデラーは、ゴルフ界のカリスマの前でまた歴史を書き換えた。
 ウィンブルドン4連覇に重ねての全米オープン3連覇は史上初――硬軟織り交ぜたほれぼれするタフネスに地元の声援も割れ、最後は満場がスタンディングオベーションでフェデラーの通算8度目のグランドスラム優勝を祝っていた。

「粘る」ことの意味

オープン化以降3人目となる全米3連覇を達成したフェデラー 【Getty Images/AFLO】

 第1セットはフェデラーがあっさり奪った。8月にほぼ1年ぶりのツアー優勝を飾ったアンディ・ロディック(米国)には荷の重い決勝という気もしたが、プラス材料がなかったわけではない。まず地元の利。球脚の速いコートサーフェスが失いかけた自信を支えてきたし、この夏、ジミー・コナーズをコーチに呼んだ新鮮な効果もあった。ロディックは3年前のこの大会で優勝、それも、アガシの前コーチだったブラッド・ギルバートを招いた直後のこと。「動機付け」がカギを握る選手といっていい。
 コナーズがしきりにハッパをかけ、第2セット、ロディックはスロットル全開でフェデラーに挑んだ。ツアー最速の時速240キロのサーブ力がある。ストロークで押すことができれば、ショットに余裕が出て展開にも幅が生まれる。いきなりのサービス・ブレークで波に乗り、手がつけられない勢いになった……。だが、フェデラーは、ポイントを競り、ゲームを競り、ラリーを簡単に終わらせない長尺の展開に持ち込んだ。その様子は、さながら、土俵際の横綱。セットオールの第3セット第6ゲームが好例で、7度のジュース、5度のブレークポイントを自分のものにこそできなかったが、そこから試合の流れを引き戻している。第12ゲームをブレーク、完全に自分のペースに作り直した。
 テニスではよく「我慢」とか「粘り」とか、それを支える「精神力」など抽象的な言葉が飛び交う。これは、相手の勢いをずらして自分のペースを取り戻す、いわば“時間の組み換え”をする方法論である。フェデラーの強さは、それを実践できる冷静な判断力にある。これは恐らく、タイガー・ウッズと共通するメンタリティーに違いない。
 フェデラーは10月のAIGオープンに出場するため、初来日の予定だ。

明白な米国衰退

地元・米国の声援を受けて打倒フェデラーに挑んだが、ロディックの夢はかなわなかった 【Getty Images/AFLO】

 前日、マリア・シャラポワ(ロシア)は勢いを貫いてジュスティーヌ・エナン=アーデン(ベルギー)の壁を崩した。ロディックには、それができなかった。フェデラーの強さであり、男子ツアーの層の厚さということになるだろうが、今年の4大大会はこれですべてが終わり、特徴のあるシーズンが浮き上がってきた。
 男子はフェデラー、女子はエナンが4大会のすべての決勝に駒を進め、そのうちの3大会に優勝したフェデラーは年間グランドスラムに1勝だけ及ばない“準グランドスラム”だった。また、ヨーロッパの隆盛、米国の没落が明白で、米国選手によるメジャーの決勝進出者は、男女合わせてもロディックの1回きりに終わった。
 また今回、採用されたビデオ判定のインスタント・リプレーの評価は、選手間ではまちまちだったが、観客の興味が徐々に薄れていったことは事実。選手からの判定要求(チャレンジ)は88試合で215回、判定が覆された確率は32%と意外に低かった。この結果は、コーチングの導入などの改革に、何らかの影響を与えるだろう。

<了>
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著者プロフィール

宮城県仙台市出身。男性。巨人系スポーツ紙の運動部、整理部を経て、1985年からフリーの立場で野球、マラソン、テニスを中心に活動。新聞メディアや競技団体を批判する辛口ライターとして知られながら、この頃は甘くなったとの声も。テニスは85年のフレンチオープンから4大大会を取材。いっさいのスポーツに手を出さなかったが、最近、ゴルフを開始。フライフィッシングはプロ級を自認する

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