フェデラーは経験と自信の雪だるま=全豪オープン

武田薫

グランドスラム通算10度目の優勝を果たしたフェデラーは、経験と自信をさらに積み重ねる 【Getty Images/AFLO】

 ゴンザレスの動きが派手になっていった。感情をコート上に見せ始め、ビッグショットを決めるも、明らかなミスヒットも増えた。その分だけ、スタンドの反応もにぎやかなものになった。

 この3日間、センターコートには淡々とした試合が続いてきた。ロジャー・フェデラー(スイス)がアンディ・ロディック(米国)を倒した6−4、6−0、6−2の試合。フェルナンド・ゴンサレス(チリ)がトミー・ハース(ドイツ)の夢を断ち切った6−1、6−3、6−1。そして、マリア・シャラポワ(ロシア)がうなるまでもなかった女子決勝の6−1、6−2。よもやの一方的試合に、スタンドの観客からため息が漏れる日が続いた。こうした大会の流れに、ゴンザレスの「動」とフェデラーの「静」はことさら対照的に映り、ゲームの底には濃い緊張感が流れていた。

第1セットの位置付けの違い

 一進一退で進んだ第1セット。最初にブレークポイントを奪ったのはゴンザレスで、フェデラーのサービスゲームだった第9ゲームを先にブレークした。しかし続く第10ゲーム、フェデラーはギアを上げてネットを脅かし、ダウンザラインにバックハンドを通してすぐにブレークバック。第1セットを7−6で奪うと、第2、3セットも6−4でリードし、2年連続3度目の優勝を飾った。

「第1セットにチャンスがあったが、フェデラーにうまく守られた」というゴンザレスの感想には、実感がこもっていた。第1セットは1ポイントが左右する薄氷の差だったことは確かだが、フェデラーとゴンザレスには、第1セットの位置付けに開きがあった。
 フェデラーは、今大会の優勝で、1980年の全仏におけるビヨルン・ボルグ(スウェーデン)以来という失セット0のおまけ付き優勝を飾り、敗れたゴンザレスも地元のレイトン・ヒューイットに次いで、マスターズカップ準優勝のジェームズ・ブレーク(米国)、第2シードのラファエル・ナダル(スペイン)、ハースを倒した勢いがあった。
 二人の違いは、フェデラーの経験に裏付けられた自信にあるだろう。
 フェデラーはこれが11度目のグランドスラム決勝(10勝1敗)であり、4大大会ではこれが140試合目だった。それに対しゴンザレスは、初の決勝でこれが66試合目。グランドスラム決勝の異様な雰囲気はさておき、二人には5セットマッチの戦い方において、大きな差があった。第1セットを落とせないのはどちらも同じだが、どうしても取らなければいけないゴンザレスと、様子を見ながらゲームを進められる、余裕のあるフェデラーとでは微妙な違いがあった。それがゴンザレスの言う「うまく守られた」というポイントだったし、フェデラーが二つのセットポイントを消して、タイブレークを一方的に支配した背景だったのではないか。

大変なチャンピオン フェデラー

 それにしても大変なチャンピオンと出くわしたものだ。
 フェデラーは、これでグランドスラム通算10度目の優勝。昨年の全仏こそ準優勝だったが、2005年のウィンブルドンから7度決勝に進んで6度も優勝している。昨年は12大会に優勝して92勝5敗、ナダルとアンディ・マレー(英国)のたった二人にしか負けていない。今シーズンの年間グランドスラムの達成の夢とともに、グランドスラムでの記録はまだまだ続きそうだ。

 日本のテニスファンは、昨年10月のAIGオープンでフェデラーのプレーを味わうことができた。これだけの選手になれば、今年も来日する保証はどこにもない。世界中が彼を欲しがっている。しかし、ボルグ以来のカリスマ・プレーヤーを見逃す手はないだろう。フェデラーのベストプレーを見ることのできるお勧めの試合は、11月のマスターズカップ。あと2年は、日本から遠くない上海開催が保証されている。テニスファンは、いま彼を見ておかないときっと後悔するだろう。

<了>
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著者プロフィール

宮城県仙台市出身。男性。巨人系スポーツ紙の運動部、整理部を経て、1985年からフリーの立場で野球、マラソン、テニスを中心に活動。新聞メディアや競技団体を批判する辛口ライターとして知られながら、この頃は甘くなったとの声も。テニスは85年のフレンチオープンから4大大会を取材。いっさいのスポーツに手を出さなかったが、最近、ゴルフを開始。フライフィッシングはプロ級を自認する

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