優勝祝いは、町とともに=中田徹の「オランダ通信」

中田徹

サポーター、監督、選手……それぞれの感慨

バルコニーに立った選手たちを見るためだけに、4万人のサポーターが集まり歓喜した 【(C)中田徹】

「アムステルダムは何にもなし! アムステルダムは何にもなし!」

 今季無冠に終わったアヤックスを揶揄(やゆ)する歌で選手とファンが溜飲を下げた後、12時52分か53分ごろ、選手はバルコニーから市庁舎の中に戻っていった。12時半からたった20分ちょっと。これだけのためにコールシンゲルを4万人のフェイエノールダーが埋めたわけである。
「月曜日の朝、数万のファンが集まった。これはホントにユニークなこと」
 UEFAカップ優勝監督でもあるファン・マルワイク監督だが、初のコールシンゲルに感慨深げだった。

 コールシンゲルが終わると4万のファンは、柵がまだ解けないセントラムを大きく迂回(うかい)して、それぞれ帰る場所へと散っていった。熱狂の中にも秩序があるコールシンゲルで、ロッテルダム警察は、「逮捕者はたった20人」と胸を張った。これはコールシンゲル史上記録的に少ない逮捕者数だったという。

 若手選手のフェルとブラウンスは、共に1999年のコールシンゲルをテレビで見たらしいが、「実際コールシンゲルを経験してみると、もっと素晴らしいし、もっとすごいと感じるね」(フェル)と実際のコールシンゲルに感動していた。

 ベテランGKのティマーはUEFAカップ優勝時、フェイエノールトの控えGKだったが、前述の通りコールシンゲルはなかった。
「試合の翌日、ピエール(・ファン・ホーイドンク)とコールシンゲルを歩いてみたが、通りは人がいなかったのを覚えている。その時僕たちは何かが無かったことに気付いた」
 それからティマーはアヤックス、AZを経て2006年からまたフェイエノールトに戻り、現在はレギュラーGKとして活躍している。「どんな選手もフェイエノールトに来るからには、一度でもコールシンゲルを経験したいと思っているんだ」と念願達成を喜んだ。

成功に終わった9年ぶりのコールシンゲル その意義とは

 こうして9年ぶりのフェイエノールトのコールシンゲルは成功に終わった。PSVもまたオランダリーグの優勝を町の中で祝っている。しかし、もしアヤックスが優勝したらこうはいかない。アヤックスは伝統的に優勝すると、ライツェ・プライン(広場)やミュージウム・プラインで祝っている。たとえ今季の最終節でアヤックスがPSVを逆転し、優勝したとしても、アムステルダム市は町の中での祝勝会を許可せず、ホームスタジアムであるアムステルダム・アレナで行う手はずになっていた。やはりサポーターが町の中で暴れることを恐れたのだろう。

 本来サッカークラブというものは町と密接に結びついており、スタジアムの中での祝勝会では少し味気ない。アヤックスの選手だってライツェ・プラインやミュージウム・プラインを夢見て入団してくるわけである。こういう観点からも今回、コールシンゲルが熱狂的かつ整然だったのはフェイエノールトにとっても、ロッテルダム市にとっても意義のあることで、フェイエノールトは立派な態度をとったファンと、場所を提供してくれたロッテルダム市に感謝した。

 またロッテルダムのオップステルテン市長は、フェイエノールトのカップ獲得を「素晴らしい偉業。ロッテルダム市はこれを誇りに思う。ロッテルダムを代表してこの偉業に感謝したい。来季のUEFAカップでも活躍を期待している」と喜んでいた。

 フェイエノールトは今季、積極的な補強策を見せたが、そのかいなくオランダリーグで6位に終わり批判を浴びていた。しかし2008年7月にクラブ創立100周年という記念すべき年にKNVBカップというタイトルを取ったばかりでなく、プレーオフを経ることなくシーズン当初の目標であったUEFAカップ出場権を得ることができた。

 こうしてフェイエノールトはシーズンの最後の最後でポジティブなムードを取り戻した。7月からオランダ代表監督に就くファン・マルワイクにとっても、タイトルとともにフェイエノールトと美しく別れを告げることができた。来季からの新監督は、今季ヘーレンフェーンを攻撃力あふれる魅力的なチームに育てたフェルベーク。今回の優勝の勢いがフェルベーク率いる新チームにバトンされるだろうか。名門復活に懸ける100周年のフェイエノールトに注目したい。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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