ルーツをともにする両チームの3番。明暗分かれる中で去来する共通の思い
29対29のタイスコアで迎えた試合終盤、ラストプレーを告げるホーンが鳴り響いたあとの後半43分、江東BSは田森海音が逆転トライ。コンバージョンキックも成功させたビジターチームが劇的な展開で連敗にピリオドを打った。
勝利の瞬間、すでにベンチに下がっていた江東BSの李優河は汗にまみれた顔に涙を浮かべながら、“花園の歓喜”をかみ締めていた。
同じプロップのポジションで同じ背番号3を付ける花園Lの文裕徹は、大阪朝鮮中高級学校と同志社大学ラグビー部でも先輩だった。
「対戦相手として試合をするのは初めてなんです」(李)。同じ高校と大学でプレーした選手は日本のラグビー界では珍しくないが「小学校のときから一緒です」と李は幼少期から在日社会で育ってきた先輩と同じ道を歩んできた。
花園Lがディビジョン1から降格し、江東BSがD3から昇格してきたからこそ実現した今回の顔合わせ。スクラムでは対面でなかったものの、互いの息遣いが聞こえる距離感で、何度もグラウンド上で対峙した。
「先輩として尊敬しつつも、相手チームなので負けられない気持ちでプレーしたり、スクラムを組んだりしました」と李は胸を張った。
一方で、文にとっては“花園の悲劇”となった。「後輩との対決はあまり意識していませんでした」とあくまでもチームの勝利だけを考えてグラウンドに立ったが、待っていた結果はあまりにも残酷なものだった。
ハーフタイムには互いに一目もくれず、ベンチに向かったが、文は「後輩でありながら、大学では一緒のポジションでライバル。優河に負けないように工夫しながら切磋琢磨してきました。そういう選手と一緒に戦えて良かった」と本音も口にする。
10代から同じジャージーを着続けてきた二人だが、いまは花園Lと江東BSの一員だ。ただ、大阪朝鮮中高級学校で学んだ二人にはいまでも共通する思いが根付いている。
「朝鮮学校出身のラグビー選手として在日社会を力付けたいです」と李が言えば、文も「在日社会のためという思いは朝鮮学校出身の選手にはありますね」と力を込めた。
リターンマッチは3月15日の第8節にやってくる。背番号とポジション、そしてルーツも同じ二人――。次はどんな物語を紡いでくれるのだろうか。
(下薗昌記)
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