保護者視点で考える運動部活動の活動実態と地域連携
本文:鈴木 貴大(笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策オフィサー)
※2024年12月に笹川スポーツ財団・公式ウェブサイトに掲載されたものです。
【写真:Adobe Stock】
1.中学校期の運動部活動の活動状況と本人・保護者の希望
週あたりの活動日数をみると、実際の活動状況(以下、実状)、本人希望、保護者希望いずれも「5日」の割合が最も高く、それぞれ46.0%、36.6%、35.9%であり、本人・保護者希望は実状よりも低い。一方、「6日」は実状18.3%、本人希望22.6%、保護者希望29.3%と本人・保護者希望が実状よりも高い値を示した。保護者希望が実状より11ポイント高いことからも、現状より活動日数が多くてもよいと考える保護者が一定数いると推察できる。
土日の活動日数は、実状、本人・保護者希望いずれも「1日」の割合が最も高く70%台であった。「0日」は本人希望が実状より7.2ポイント高く、「2日」は7.9ポイント低い。つまり、土日の活動日数は今よりも減らしたいと考える中学生が一定数いると推察できる。保護者希望は本人希望ほど実状との差はないが、「1日」は4.4ポイント高く、「2日」は4.6ポイント低い。また、本人希望とは「0日」で7.0ポイントの差がみられた。保護者も生徒同様に土日の活動日数は実状よりは少ないほうが好ましいと思う一方で、土日とも休むことに対して生徒ほど希望は高くない実態が明らかになった。
平日の活動時間をみるといずれも「1~2時間」の割合が最も高く、実状と本人希望にはほとんど差はみられない。保護者希望は「1~2時間」がほかよりも4ポイント程低く、「3~4時間」が3ポイント程度高いが大きな差はなかった。土日の活動時間は「3~4時間」が実状71.2%、本人希望59.7%、保護者希望68.9%で最も高い値を示したが、本人希望は実状より11.5ポイント低く、さらに「1~2時間」が13.2ポイント高いことからも、土日の活動時間は生徒本人の希望よりも長い状況が確認できる。一方、保護者希望は実状との差がほとんどなく本人希望との差が大きい。生徒本人は土日の活動時間を減らしたいが、保護者は現状の時間が好ましいと思っている。
【表1】運動部活動の活動状況と活動希望(中学校期・保護者) 【資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023】
2.高校期の運動部活動の活動状況と本人・保護者の希望
土日の活動日数をみると、「1日」が実状では53.4%、本人希望61.6%、保護者希望66.1%で最も高いが、実状と本人・保護者希望の割合には10ポイント前後の差がある。また、「0日」は実状より本人希望が9.4ポイント高く24.9%、「2日」は本人希望が17.4ポイント低く13.6%、保護者希望は10.4ポイント低く20.6%であった。現状では3割の生徒が土日とも活動しているが本人希望は1割強にとどまり、4人に1人の生徒は土日は休みたいと考えている。保護者希望も土日の活動日数は現状よりも少ないほうが好ましいと思う一方で、両日休みは実状よりも低く「1日」の割合が12.7ポイント高い。また、「0日」が本人希望よりも11.7ポイント低いことからも、一定数の生徒が土日は休みたいと思っているが、保護者としては運動部活動に所属するからには両日休むよりは土日のどちらか1日は活動してほしいという意向が確認できる。
活動時間をみると、実状、本人・保護者希望いずれも平日では「1~2時間」、休日では「3~4時間」の割合が高い。平日では「3~4時間」は実状より本人希望が11.0ポイント低いが、「1~2時間」は本人希望が9.2ポイント高い。休日は「3~4時間」「5時間以上」で本人希望が実状よりも5ポイント以上低く、「1~2時間」が10.2ポイント高い。平日、休日ともに実際の活動時間は生徒本人の希望よりも長い状況であることが読み取れる。保護者希望は平日、休日ともに実状との差がほとんどない一方、本人希望との差が大きく、平日の「1~2時間」では保護者希望が7.2ポイント低く、「3~4時間」では11.3ポイント高い。土日では「1~2時間」で保護者希望が10.1ポイント低く、「3~4時間」は6.5ポイント高い。本人希望からは平日・土日の活動時間を今よりも減らしたい意向をくみ取れるが、保護者としては現状の活動時間が好ましいという結果が明らかになった。
【表2】運動部活動の活動状況と活動希望(高校期・保護者) 【資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023】
3.保護者の運動部活動に対する期待
【表3】運動部活動に期待すること 【資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023】
4.運動部活動の地域連携・地域クラブ活動への移行に対する保護者の意向
【表4】中学生保護者の運動部活動の地域連携・地域移行に対する期待 【資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023】
【表5】中学生保護者の運動部活動の地域連携・地域移行に対する心配や不安 【資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023】
5.まとめ
部活動の地域連携・地域移行に関して、スポーツ庁は2023~2025年度を「改革推進期間」と定め各地域でモデル事業が進められている。本稿では保護者視点で運動部活動の活動状況や地域連携・地域移行に対する期待や不安を明らかにしてきたが、部活動への保護者の影響力の強さやサポートの重要性を鑑みると、保護者の意向を踏まえた地域連携・地域移行に取り組む必要がある。「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」2023では、表1,2に示した生徒本人の希望に着目し、運動部活動への意識との関連を検証した結果、自由時間の少なさに不満を感じる傾向が確認された。さらに地域連携・地域移行が進み休日の活動に選択肢が増えた場合でも中学生の2~3割は休日に活動したくないと回答している。地域連携・地域移行は生徒のニーズを踏まえた検討が必要であるものの、スポーツ庁が示すように地域の実状に応じた早期の実現が必ずしも最適解とは限らない。たとえば、休日の活動日数や時間を減らしたり、兼部を可能にしたりするなど、現在の運動部活動の見直しにより生徒や教員、関係者にとってのメリットを見出せる可能性もあるだろう。
このように、報告書では生徒のニーズを踏まえた取り組みや、運動部活動の運用の見直しを提案してきたが、本コラムで示したように保護者視点で考えるとまた違った側面がみえてくる。活動頻度に関する意向や子どもの運動部への加入状況による地域連携・地域移行への期待の違いなど、保護者によって部活動に対する考えは多様である。さらに、学校ごとに部活動の方針は異なり、同じ地域内でもニーズが多岐にわたる可能性も考えられる。これまでの部活動運営と同様に保護者の理解やサポートは地域連携・地域移行を持続させるためには必要不可欠である。学校単位、地域単位で生徒と保護者の考えの違いや保護者が現在の部活動、地域連携・地域移行に何を期待しているのか、どのようなサポートならできるのかなど、保護者の意向の丁寧な把握が求められる。
参考文献
● 鈴木貴大(2023)学校運動部活動の活動実態と本人の希望との差からみる生徒のニーズ-これからの地域連携・地域移行のあり方-.子ども・青少年のスポーツライフ・データ2023:pp42-48.
● 中澤篤史(2008)部活動の処遇における学校と保護者の相互行為-保護者の〈要望〉と〈支援〉に注目して.学校教育研究23巻:pp130-143
● 村本宗太郎,松尾哲矢(2021)学校運動部活動に対する保護者の関与に関する分析枠組の検討-運動部での体罰発生との関連に着目して-,立教大学コミュニティ福祉研究所紀要第9号:pp117-132
「子ども・青少年のスポーツライフ・データ2023」調査概要
■調査内容
運動・スポーツ実施状況、運動・スポーツ施設、スポーツクラブ・運動部、習いごと、スポーツ観戦、スポーツボランティア、好きなスポーツ選手、健康認識・生活習慣、身体活動、個人属性 等
■調査対象
1)母集団:全国の市区町村に在住する12~21歳
2)標本数:3,000人
3)抽出方法:層化二段無作為抽出法
■地点数:全国225地点
■調査時期:2023年6月24日~7月21日
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