【ジャパンカップ共同会見】「最後の花道はJCの他にない」A.オブライエン師、オーギュストロダン万全仕上げでいざ出陣

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芝コースで伸びやかなフットワークを見せたオーギュストロダン、陣営も引退レースに向けて仕上がり万全を強調している 【photo by Akihiko Takeda】

 第44回GIジャパンカップ(11月24日、東京競馬場2400m芝)に出走を予定している海外馬の関係者による共同会見が11月21日(木)、レースの舞台となる東京競馬場で行われた。会見にはオーギュストロダン(牡4=愛・A.オブライエン厩舎)、ゴリアット(せん4=仏・F.グラファール厩舎)、ファンタスティックムーン(牡4=独・S.シュタインベルク厩舎)の調教師、騎手らが出席。それぞれの陣営が馬の状態、大一番にかける思いなどを語った。

ラストレースへ調整は順調「これ以上ないくらいに満足」

初来日のエイダン・オブライエン調教師、ジャパンカップにかける思いを語った 【photo by Akihiko Takeda】

 英愛ダービー、米ブリーダーズカップ・ターフなど世界3カ国のGI・6勝馬で、父は日本の英雄ディープインパクト。しかも、世界に6頭しかいないラストクロップにしてディープインパクト産駒の世代を超えた最高傑作とも評されているオーギュストロダンのラストランが目前に迫ってきた。

 20日(水)の最終追い切りは東京競馬場の芝コースで帯同馬を4~5馬身リードする形で実施。四肢を大きく使うダイナミックなフォームで7ハロンから時計を出し、全体では98秒台、馬なりのままラスト1ハロンは13秒台前半でまとめた。

「私はいつも競走馬に騎乗したジョッキーにどのように感じたかを尋ねるのですが、オーギュストロダンの場合は『非常にスペシャルだ』という答えが返ってきます。流れるような滑らかなストライドで、スピードも速い。武豊騎手がディープインパクトを『飛ぶ』と言ったことと同様に、オーギュストロダンも他の馬とは違う感覚をジョッキーに与えているのだと思います」

 会見でそう語ったのはオーギュストロダンを管理するエイダン・オブライエン調教師だ。ジャパンカップにはこれまで5回、通算6頭の出走があるもののトレーナーが来日することはなかった。しかし、今回は19日(火)の夜に初来日を果たすと、さっそく翌日早朝から陣頭指揮。カメラマンの撮影エリアまで上がって双眼鏡で動きを追うなど、愛馬の動き一つひとつをつぶさに観察していた。

「ジャパンカップはとても重要なレースですし、ディープインパクトの最後の産駒ということで注目度も高い。そのオーギュストロダンが初めて日本のターフに出る日を私はどうしても見たかったんです。だから、週の半ばから来日しました。私にとっても、そしてオーギュストロダンにとっても日本に来てレースを走るのは夢でした。ジャパンカップは難しいレースで、素晴らしい馬たちがたくさん出走することも知っています。それでも最後のレースとして花道を飾るには日本のジャパンカップの他にはないと思っていました」

オーギュストロダンは木曜朝も精力的にダートコースで時計を出した 【photo by Akihiko Takeda】

 世界を代表する名トレーナーのこの言葉一つ、行動一つを見てもJCにかける本気度が分かるというものだ。そして、最高の花道を飾るための仕上がり具合もA.オブライエン調教師は万全を強調。木曜朝はダートコースに入り、1600mから時計になるくらいのラップを踏みながら直線はサッと流した。

「日本に来てからもずっといい状態で来ています。芝での追い切りも満足がいく走りでしたし、今朝のダートでのキャンターも含めて計画通りのトレーニングを進めることができました。今はこれ以上ないくらいに満足しています」

 東京の芝、コースへの適応に関しても「ストライドがとても大きいので東京のトラックに向いていると思います」。そして、海外馬としては異例中の異例とも言えるレース後の引退セレモニーの実施に関して「非常に特別なことで心から感謝しています。それだけ日本のファンがいかにオーギュストロダンを愛してくれているか、そしてディープインパクトを大切に思っているかが分かります。当日はたくさんの人が来てくれることを楽しみにしています」と感謝を述べたA.オブライエン調教師。

 父の故郷でオーギュストロダンが最後に見せる世界規格のパフォーマンス。日本のファンに衝撃をもたらす走りを期待したい。

強気のゴリアット陣営、スミヨン騎手「みんなが自信を持っている」

スミヨン騎手が騎乗した水曜の追い切りで芝コースを疾走したゴリアット、パワフルなフットワークが印象的だった 【photo by Akihiko Takeda】

 オーギュストロダン以上に20日の芝コースでの追い切りで意欲的な動きを見せたのがゴリアットだ。キャピタルステークスに出走を予定している同厩舎の僚馬ルノマド(せん6歳)を4馬身ほど追いかけ、鞍上のクリストフ・スミヨン騎手が最後の直線で軽く仕掛けると半馬身ほどの先着。全体7ハロンで90秒半ば、ラスト1ハロンは12秒前半と脚を伸ばした。オーギュストロダンとは対照的な回転の速い走法でパワフルな印象だが、スピード感も十分。木曜はダートコースを軽めのキャンターで1周している。

 また、常歩で左後肢を高く上げる特徴的な歩様――鶏跛(けいは)が話題を呼んでいるゴリアットだが、小気味よくクビを前後に動かす仕草と合わせて活気に満ちた雰囲気も伝わってくる。

「長時間のフライトも上手く行きましたし、検疫もパーフェクト。体重も落ちず、調整もとても上手く進められました。今は150%にフィットした状態です」

 そう仕上がり具合に自信を見せたのはフランシス・グラファール調教師。同馬の共同馬主であるレゾリュートレーシングのジョン・スチュワート氏のエンターテインメント性あふれるSNS発信が注目の的となっているが、強気なのはオーナーだけではない。調教師、そして手綱をとるスミヨン騎手もその一人だ。水曜の追い切り直後には「パーフェクトな馬。JCを勝つために必要な要素をゴリアットは全て兼ね備えている。大きな自信を持っています」と語っていたが、この日の会見でもゴリアットへの絶大な信頼を述べた。

「昨日の追い切りはとても良かったですし、もうこれ以上満足できないくらいの状態です。もしジャパンカップでどの馬に乗るかと言われたら、私はゴリアットを選びます。ドウデュースもチェルヴィニアも素晴らしい馬ですが、私はベストの馬に騎乗できることがとてもラッキー。チームの大きな夢を実現したいですし、チームのみんなが自信を持っています」

強気のチーム・ゴリアット(左からスミヨン騎手、馬主のスチュワート氏、グラファール調教師) 【photo by Akihiko Takeda】

 2010年ブエナビスタ(2着降着)、2014年エピファネイアとJCで2度最先着の経験がある名手が「内枠がいい」と希望した通り、レースは1枠1番からの発走。欧州2400m戦の最高峰の1つであるキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスで後の凱旋門賞馬ブルースストッキング、オーギュストロダンを撃破したのに続き、日本のターフでも欧州の巨人が大暴れを見せるか。

 なお、前述したオーナーのスチュワート氏も記者に促される形で急きょ、会見に参加。「ワクワクしています。ゴリアットは支配的なパフォーマンスを日本のファンにも見せてくれるでしょうし、日本の競馬がどこまで進展したのか確かめたい」と自信たっぷりに語った。

末脚自慢ファンタスティックムーン、良馬場とハイペースを味方に

ファンタスティックムーンは木曜にピーヒュレク騎手騎乗で速めの動きを見せた 【photo by Akihiko Takeda】

 ドイツから参戦するファンタスティックムーンは、水曜はダートコースでの軽めのキャンターにとどめ、木曜にレネ・ピーヒュレク騎手を背に同じくダート単走で速めのキャンターで調整した。水曜はフットワークがやや小さめに感じたが、スピードに乗せた木曜は体を大きく使った走りを見せている。

 一方、芝コースには入れず、ダートコースのみの調整に終始しているのは気になるところだが、これは予定通りだという。サラ・シュタインベルク調教師が語る。

「日本に到着してから短期間で環境にも慣れましたし、馬の調子は非常にいいですよ。東京で芝コースに入っていないのは、本国ですでに最終的な仕上げができているからです。ファンタスティックムーンは慎重に扱わなければいけない馬で、常にリラックスさせることが実力発揮につながると思って芝には入れていません」

 トレーナーの言葉通り、水、木の2日間はリラックスムードを見せていたファンタスティックムーン。同馬もオーギュストロダン同様にJCがラストレースの予定となるが、馬場・ペース適性などを加味して、東京の舞台を最後の大一番に決めたという。

「凱旋門賞(9着)は重馬場のために良い成績ではなかったのですが、良馬場のジャパンカップなら期待できるのではないかと思っています。また、ジャパンカップはハイペースで行われるレースとして知られていますが、ファンタスティックムーンにとってはそれが強みにもなります。彼の得意とする末脚を発揮するためにはハイペースの方が有利ですから」

ワンオペが話題となったシュタインベルク調教師(左)、ピーヒュレク騎手はファンタスティックムーンの末脚に自信を持っている 【photo by Akihiko Takeda】

 このファンタスティックムーンの末脚に関してはピーヒュレク騎手も太鼓判を押すとともに、この最大の武器で好勝負できる手応えも十分にあるようだ。

「末脚の切れる馬で、それが年齢とともに顕著になってきました。馬の出来に関してもドイツ出発前と変わらず良い状態。彼はジャパンカップを勝つための前提条件である良馬場、ハイペースの対応というその両方が揃っているので、実力を最大限に発揮できれば結果がついてくると思っています」

 オーギュストロダン、ゴリアットと個性が強い馬が並ぶため、どうしてもファンタスティックムーンは実績的にも地味に映るかもしれない。だが、今回の遠征ではシュタインベルク調教師が厩舎スタッフを伴わずに単独で来日し、調教騎乗から飼い葉付けといった世話まですべての作業を一人でこなすワンオペが話題となった。当日のパドックも一人でファンタスティックムーンを曳くとのこと。レースと同じくらい、パドックでの人馬にもぜひとも注目を。(取材・文:森永淳洋)
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