3月の代表戦ではロッテ種市が完全試合リレーの最後を締める。本人が振り返る「種市の10ミリ」
完全試合リレーのメンバー 【千葉ロッテマリーンズ提供】
国際大会「ラグザス presents 第3回WBSCプレミア12」にマリーンズからは佐藤 都志也捕手、鈴木昭汰投手、横山陸人投手の3人が選ばれ11月13日に初戦を迎える。思い返せば、3月6日、7日と京セラドーム大阪で開催された侍ジャパンシリーズ2024 欧州代表戦には種市篤暉投手が選ばれ2試合を終えた後、充実した表情でチームに再合流した。3月7日のゲームでは八回から登板をし、侍ジャパン史上初の完全試合リレーの最後を締めたのだ。
「落ち着いて投げることは出来たかなとは思いますけど、凄い緊張感はありました」と当時を振り返る。
先発のマウンドに上がったのは関大の金丸夢斗投手(ドラフトで中日ドラゴンズがドラフト1位指名)。2回を打者6人、4奪三振のパーフェクトに抑えると2番手で登板をした愛工大の中村優戸投手(ドラフトで東京ヤクルトスワローズがドラフト1位指名)も1イニングを三者凡退。アマチュアから選出された2人が強烈な流れを作り出すと後続も続いた。
最初はロッカーで、五回からブルペンで試合経過を見守った種市も空気が変わっていくのを感じ取っていた。
「本当にあの2人のピッチングは凄かった。プロがそのあと、しっかりと繋げないとまずいぞという雰囲気。だいぶ刺激を感じていました」と振り返る。
四回以降はドラゴンズの松山晋也、イーグルス渡辺翔太、ライオンズ隅田知一郎が1人の走者も許さずに完全試合を継続。八回にバトンを種市につながれた。
ブルペンで準備をしながら、マウンドに上がる際の考え方をしっかりとまとめた。導き出したのが「慎重になりすぎて四球を出してしまうのが一番、悔いが残る。だから、おもいきりゾーン内にぶち込む」というテーマだった。先頭から三ゴロ、一ゴロで2アウトをとると、代打 パオリーニの打球を種市がグラブで弾くも遊撃手のライオンズ源田壮亮が難なく処理し三者凡退に切った。
「ボールをストライクゾーンに押し込むイメージで投げることが出来た。細かいコントロールを気にせず、押し込む。この感覚はシーズンにも生かせるなという発見になりました」とシーズンにもつながるピッチングだったと話す。
ヒヤリとした場面が訪れたのは最終回だ。そのまま続投で登板した九回。先頭打者が放った鋭い打球は右翼線に伸びた。「ああ、これは終わったなあと思った」と種市。「打球が見えなかった。マウンドからはフェアゾーンかなとも思った。スタンドがざわついていた」。
一瞬、頭が真っ白になった。
「お願いだから、きれてくれ」と心で叫び祈った。
アマチュア投手2選手から始まった完全リレー。侍ジャパン史上初の偉業まであと3人まで迫っていた夢が自分で潰えてしまう。一瞬、最悪の状況が頭を過った。その直後、審判によるファウルのジェスチャーが見えた。思わず、肩から崩れ落ちるようなしぐさと安堵の表情を見せた。
後日、「あれは種市の10ミリですよ」と22年サッカーW杯で「三笘の1ミリ」と話題となったワードとかけて笑う。それほどきわどい当たり。ほぼボール1個分の差で地獄から天国になった。「本当に普段からゴミを拾うなどの心がけをしておいてよかったと思いました。あれでフェアだったら炎上 確実でした」と種市。今だから笑って言える話。ゾッとしたとはこのことだった。一瞬だが、スローモーションのように時間が流れる感覚を味わった。
ホッとしたところが気持ちを入れ替え、そこからはギアを上げた。伝家の宝刀 フォークを連発し三者凡退。鋭い曲がりで打者のバットは空を切り、偉業は達成された。
「本当に色々な人に喜んでもらいましたし反響もあった。ああいう形で最後を締めて、みんなと握手できたのは本当に良かった。自分の中でも昨年と今年、この2回の代表の試合で投げることができてプレッシャーと少しは向き合えるようになったかなと思います」と思い返す。
チーム再合流後、何度も「勉強になった。本当に参加をしてよかった」と口にした。思えば昨年3月、WBC前の侍ジャパン強化試合で予備登録メンバーとして京セラドームで登板をするなど代表メンバーと一緒の時間を過ごした種市はメモ魔だった。ダルビッシュ、大谷翔平。色々な人から話を聞いて回り、自分の糧にした。それは今回も同じ。事前にどの投手がどの球種を投げるのかを自前でチェックしてから合流。積極的に話しかけた。
「フォーム、変化球、ウェートの仕方、食事、一日の過ごし方、体脂肪率の話。みんなに聞きまわりました。それぞれが色々な考えをもっていてなるほどなあと思いました。練習中までに聞けなかった人にはベンチに言って聞いたくらいです。去年も色々と聞いて取り入れて良くなった部分もあったので、今年も頂いたヒントを元に自分のものにしたい」(種市)
特に2024年からは新たにカーブに力を入れていたこともあり、代表入りしている投手陣のカーブの投げ方、握り方、腕の振り方を確認した。大学生2人にも聞いた。一番、話をしたのはバファローズの山下舜平大。食事会場ではいつも一緒に過ごし、様々な会話を重ねた。
「めちゃくちゃ真面目。愛嬌もある。去年もオールスターで少し話をする機会があったけど、今回はじっくりと話をすることが出来た。日ごろから色々と考えながら野球をやっているという印象を受けた」と年下ながら強い刺激を受けた。
代表で過ごした濃密な4日間で聞いたこと、学んだこと、そして自分自身がマウンドで気が付いたことはすべてメモに書き留めた。その場で書いたものもあれば、宿舎に戻って自室で思い出して書いたものもあった。それは種市にとって今も、かけがえのない財産となっている。そして今年の11月は新たに3人のマリーンズ戦士たちが侍ジャパンのユニホームに袖を通した。国際試合の中でどのように成長するか。どのような宝物を手に戻ってくるか。楽しみにしたい。
文 千葉ロッテマリーンズ広報室 梶原紀章
「落ち着いて投げることは出来たかなとは思いますけど、凄い緊張感はありました」と当時を振り返る。
先発のマウンドに上がったのは関大の金丸夢斗投手(ドラフトで中日ドラゴンズがドラフト1位指名)。2回を打者6人、4奪三振のパーフェクトに抑えると2番手で登板をした愛工大の中村優戸投手(ドラフトで東京ヤクルトスワローズがドラフト1位指名)も1イニングを三者凡退。アマチュアから選出された2人が強烈な流れを作り出すと後続も続いた。
最初はロッカーで、五回からブルペンで試合経過を見守った種市も空気が変わっていくのを感じ取っていた。
「本当にあの2人のピッチングは凄かった。プロがそのあと、しっかりと繋げないとまずいぞという雰囲気。だいぶ刺激を感じていました」と振り返る。
四回以降はドラゴンズの松山晋也、イーグルス渡辺翔太、ライオンズ隅田知一郎が1人の走者も許さずに完全試合を継続。八回にバトンを種市につながれた。
ブルペンで準備をしながら、マウンドに上がる際の考え方をしっかりとまとめた。導き出したのが「慎重になりすぎて四球を出してしまうのが一番、悔いが残る。だから、おもいきりゾーン内にぶち込む」というテーマだった。先頭から三ゴロ、一ゴロで2アウトをとると、代打 パオリーニの打球を種市がグラブで弾くも遊撃手のライオンズ源田壮亮が難なく処理し三者凡退に切った。
「ボールをストライクゾーンに押し込むイメージで投げることが出来た。細かいコントロールを気にせず、押し込む。この感覚はシーズンにも生かせるなという発見になりました」とシーズンにもつながるピッチングだったと話す。
ヒヤリとした場面が訪れたのは最終回だ。そのまま続投で登板した九回。先頭打者が放った鋭い打球は右翼線に伸びた。「ああ、これは終わったなあと思った」と種市。「打球が見えなかった。マウンドからはフェアゾーンかなとも思った。スタンドがざわついていた」。
一瞬、頭が真っ白になった。
「お願いだから、きれてくれ」と心で叫び祈った。
アマチュア投手2選手から始まった完全リレー。侍ジャパン史上初の偉業まであと3人まで迫っていた夢が自分で潰えてしまう。一瞬、最悪の状況が頭を過った。その直後、審判によるファウルのジェスチャーが見えた。思わず、肩から崩れ落ちるようなしぐさと安堵の表情を見せた。
後日、「あれは種市の10ミリですよ」と22年サッカーW杯で「三笘の1ミリ」と話題となったワードとかけて笑う。それほどきわどい当たり。ほぼボール1個分の差で地獄から天国になった。「本当に普段からゴミを拾うなどの心がけをしておいてよかったと思いました。あれでフェアだったら炎上 確実でした」と種市。今だから笑って言える話。ゾッとしたとはこのことだった。一瞬だが、スローモーションのように時間が流れる感覚を味わった。
ホッとしたところが気持ちを入れ替え、そこからはギアを上げた。伝家の宝刀 フォークを連発し三者凡退。鋭い曲がりで打者のバットは空を切り、偉業は達成された。
「本当に色々な人に喜んでもらいましたし反響もあった。ああいう形で最後を締めて、みんなと握手できたのは本当に良かった。自分の中でも昨年と今年、この2回の代表の試合で投げることができてプレッシャーと少しは向き合えるようになったかなと思います」と思い返す。
チーム再合流後、何度も「勉強になった。本当に参加をしてよかった」と口にした。思えば昨年3月、WBC前の侍ジャパン強化試合で予備登録メンバーとして京セラドームで登板をするなど代表メンバーと一緒の時間を過ごした種市はメモ魔だった。ダルビッシュ、大谷翔平。色々な人から話を聞いて回り、自分の糧にした。それは今回も同じ。事前にどの投手がどの球種を投げるのかを自前でチェックしてから合流。積極的に話しかけた。
「フォーム、変化球、ウェートの仕方、食事、一日の過ごし方、体脂肪率の話。みんなに聞きまわりました。それぞれが色々な考えをもっていてなるほどなあと思いました。練習中までに聞けなかった人にはベンチに言って聞いたくらいです。去年も色々と聞いて取り入れて良くなった部分もあったので、今年も頂いたヒントを元に自分のものにしたい」(種市)
特に2024年からは新たにカーブに力を入れていたこともあり、代表入りしている投手陣のカーブの投げ方、握り方、腕の振り方を確認した。大学生2人にも聞いた。一番、話をしたのはバファローズの山下舜平大。食事会場ではいつも一緒に過ごし、様々な会話を重ねた。
「めちゃくちゃ真面目。愛嬌もある。去年もオールスターで少し話をする機会があったけど、今回はじっくりと話をすることが出来た。日ごろから色々と考えながら野球をやっているという印象を受けた」と年下ながら強い刺激を受けた。
代表で過ごした濃密な4日間で聞いたこと、学んだこと、そして自分自身がマウンドで気が付いたことはすべてメモに書き留めた。その場で書いたものもあれば、宿舎に戻って自室で思い出して書いたものもあった。それは種市にとって今も、かけがえのない財産となっている。そして今年の11月は新たに3人のマリーンズ戦士たちが侍ジャパンのユニホームに袖を通した。国際試合の中でどのように成長するか。どのような宝物を手に戻ってくるか。楽しみにしたい。
文 千葉ロッテマリーンズ広報室 梶原紀章
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