日本調教馬初Vを目指すフォーエバーヤング、ダービー馬シャフリヤールらが参戦 ブリーダーズカップ4レースを展望
ケンタッキーダービーで3着に入ったフォーエバーヤング 【Photo by Getty Images】
【ブリーダーズカップクラシック】話題の中心はシティオブトロイも、先行激化なら日本の3頭に勝機到来
今年のBCクラシックは英芝戦線の王道をまい進してきたシティオブトロイが初のダート挑戦を克服し、A.オブライエン調教師に待望のタイトルをもたらすかが最大の呼び物となっている。父は米三冠馬のジャスティファイで、スピードの持続力を持ち味とするスタイルはダートに合いそうなうえ、歴代最多の英ダービー10勝を誇るオブライエン師をして最高傑作と認めるほどの能力の持ち主。結果はさておき、どのようなレースを披露してくれるのか注目を集めるのは当然だろう。
これを迎え撃つアメリカの大将格はフィアースネス。昨年はBCジュベナイルを制した2歳王者で、それを含むG1レース3勝と3歳世代をリードする存在といえる。ただ、軽快な先行力を武器とする一方、1番人気に推されたケンタッキーダービーで15着に大敗したように、早めに競られるなど他馬のプレッシャーに対して脆い面がある。一方でシティオブトロイは初ダートに向け英国のオールウェザーコースで僚馬たちと予行演習を行ってきたが、本場の砂つぶてを浴びて耐えられる保証もない。オブライエン師も先行策を明言しており、両雄が前々で運べば厳しい流れになることは必至だ。
両雄の共倒れもあり得る状況だけに、日本の3頭にも少なからずチャンスはあるはず。デルマソトガケは昨年のBCクラシックで2着(1馬身差)、フォーエバーヤングはケンタッキーダービーで3着ながら勝ち馬との着差(ハナ+ハナ)がさらに小さく、それぞれに米ダート競馬の最高峰で勝利に肉薄した実績がある。また、ウシュバテソーロは昨年のドバイWCで実際に世界を制し、昨年のBCクラシックもデルマソトガケに2馬身少々の5着。その後の3戦は全て先着と互角以上に戦っている。3頭とも2強との比較では注文がつかないタイプだけに、流れに乗れさえすれば上位争いを期待できるだろう。ただし、矢作芳人調教師が「最悪」と認めるように、最内枠のフォーエバーヤングは課題の残るゲートに失敗すると、次々と前に入られて苦しい位置に追いやられるリスクが生じた。
G1を3連勝中のジャスティファイ産駒シティオブトロイ 【Photo by Getty Images】
枠順抽選後に主催者が発表した想定オッズではネクストの評価が高めだが、ダートのステイヤーというアメリカでは異色の存在。直近7連勝で2着につけた着差は合計91馬身以上とワンサイドではあるものの、相手関係が大幅に強化してペースも上がる今回は試金石だろう。
ハイランドフォールズとアーサーズライド、タピットトライス、ピレニーズは9月のジョッキークラブGCで直接対決し、2番手追走のハイランドフォールズが並ぶように先行したアーサーズライド、3番手のタピットトライスを蹴散らして4馬身差の完勝。2着のピレニーズはさらに後ろからで展開の利があった。3月のサンタアニタHではニューゲートに敗れたが、当時のハイランドフォールズは二の足がつかず最後方からのレース。これらの馬たちは7番人気以下の評価だが、ハイランドフォールズはジョッキークラブGCのように先行し、フィアースネスにプレッシャーをかけられるようなら勝機がめぐってくることも。
昨年のBCターフで3着の実績があるシャフリヤール 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
【ブリーダーズカップターフ】レベルスロマンスの強力先行に挑むシャフリヤール、展開を利したいローシャムパーク
2年前のキーンランド開催では追い込みに近い差し切りでBCターフを制したレベルスロマンスだが、不振から立ち直った今シーズンは初戦のアミールトロフィーで逃げる作戦に出て覚醒。続くドバイシーマクラシックでは今回も対戦するシャフリヤールとエミリーアップジョンを寄せつけずに完全復活を印象づけた。唯一の黒星を喫したキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでも、先行勢が沈む厳しい展開に耐え抜いて後の凱旋門賞馬ブルーストッキングに1馬身差の3着。余程のことがない限り大崩れは考えにくい。
レベルスロマンスを負かし得る筆頭候補はシャフリヤールと信じたい。ドバイでは直後を追走も最後に2馬身差をつけられたが、当時のレベルスロマンスは復活の兆しを見せていた段階で、英ブックメーカーの人気も20倍台の伏兵評価。シャフリヤールのC.デムーロ騎手としては、後ろのリバティアイランドやオーギュストロダンらの人気馬にも注意しておく必要があっただろう。シャフリヤールにも昨年のBCターフで3着の実績があり、相手を1頭に絞れる今回が決着戦だ。
エミリーアップジョンはドバイの段階でレベルスロマンスとシャフリヤールより高い人気だった。結果は完敗の5着も、当時は8か月ぶりの実戦。プレエントリーで第一希望のフィリー&メアターフではなく、あえてレベルスロマンスとの再戦を選択した点が不気味に映る。陣営は距離適性を理由としているものの、両レースでは200mしか違わない。牡馬が相手になっても、賞金が2.5倍高いターフで勝ち負けの自信があるのだろう。前走のヴェルメイユ賞で小差の上位2頭が凱旋門賞でもワンツーを決めた事実も後押しする。今年は6戦未勝利だが、厩舎の主戦に抜てきされたK.シューマーク騎手が今ひとつ振るわず、昨年まで主戦だったL.デットーリ騎手との再コンビが決定している点も見逃せない。
今年は3か国でG1勝ちしているレベルスロマンス 【Photo by Getty Images】
2頭出しのA.オブライエン厩舎は主戦のR.ムーア騎手がルクセンブルクを選択。もう1頭のウイングスパンは前走の英チャンピオンズフィリーズ&メアズ Sで2着に逃げ粘ったものの、重賞未勝利の3歳牝馬で実績的に不足している。援護射撃に回る作戦だとしても、一線級相手に完敗続きのルクセンブルクが応えられるか。
この辺りにならローシャムパークも引けは取らないはず。2400mは今回が初めてだが、血統的にはむしろ合っていそうな感がある。ゲートに課題がある現状で最内枠に決まり、後方からのレースを織り込む必要はあるが、大阪杯では2番枠から捲り気味の仕掛けで勝利に肉薄し、オールカマーと函館記念での重賞勝利を含めて小回りコースは好相性。レベルスロマンスをめぐって先行勢に厳しい展開になるようなら台頭のチャンスも。
5年ぶりの勝利を狙うアメリカ勢の総大将ファーブリッジは、2400mに距離延長を図った直近2戦でG1連勝。8月のソードダンサーSは逃げ切り、9月のジョーハーシュターフクラシックは勝負所で鞍上が手綱を引く不利を受け、最後方に下がりながらの差し切りと自在性がある。ただ、どちらも5頭立ての少頭数で今回は2倍以上、大幅強化の相手関係で真価を問われる一戦となる。
これより評価の低いアメリカ勢ではなお苦しそうだが、ゴールドフェニックスは昨年のBCターフで単勝52.6倍の8番人気(現地発売)ながらシャフリヤールに続く4着。西海岸がベースで2200mのデルマーハンデキャップを3連覇と、昨年のサンタアニタパーク競馬場よりさらに地の利があり侮れない。
ヴィクトリアマイルでG1初制覇を飾ったテンハッピーローズ 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】
【ブリーダーズカップマイル】ゴドルフィンの4連覇なるか、日本の2頭を含めライバルは多士済々
デルマー競馬場の芝コースは最終コーナーからゴールまで約250mしかなく、2ターンのコース1周で争われるため外枠ほど不利になる。また、スピード優先で距離適性が短めな馬でもこなせてしまう。近年のBC開催地は似たような感じだが、こうした難しい舞台で3連覇中なのがゴドルフィン。C.アップルビー調教師とW.ビュイック騎手を擁すチームは、夏場も積極的に馬を送り込むなど、米国の芝で勝つ術を心得ている。
今年のノータブルスピーチは1月のデビューから7戦ともマイル戦で、良馬場の英2000ギニーとサセックスSを強烈な瞬発力で制している。2つの黒星には発馬直後の不利で折り合いを欠いたセントジェームズパレスS、道悪のムーランドロンシャン賞と明確な敗因があり、馬群から一瞬にして抜け出す末脚の回転力からも、実力発揮は高速馬場でこそと思わせる。
強敵となりそうなのが牝馬のポータフォーチュナで、こちらは前走まで英愛の牝馬G1を3連勝中。いずれも先行策から満を持しての抜け出しと、牝馬のマイル路線では敵無しの感がある。2着に敗れた4戦前の英1000ギニーは仕掛けが早すぎた展開のアヤでしかなく、小回りコースの今回は前々で運べる脚質もアドバンテージになるだろう。
フランスのラマチュエルはポータフォーチュナに英1000ギニー(短アタマ差)、コロネーションS(2馬身1/2差)と連敗しているが、前走のフォレ賞では好位から3馬身突き抜ける圧勝でG1初制覇を飾った。通算9戦で全て3着以内の堅実性があるうえ、デルマー開催の2021年にBCマイルを勝ち、ゴドルフィン3連覇の口火を切ったスペースブルースも前走でフォレ賞勝ち。スピードを生かせる舞台で逆転しても不思議はない。
【ラマチュエルとディエゴヴェラスケスは 11月2日(土曜)出走取消】
英2000ギニーとサセックスSを制しているノータブルスピーチ 【Photo by Getty Images】
【ラマチュエルとディエゴヴェラスケスは 11月2日(土曜)出走取消】
また、ジオグリフは長らく白星から遠ざかっているが、今年は中山記念と札幌記念で入着。大阪杯でも2馬身圏内の5着と小回りコースで復活の兆しを見せている。直線の長い安田記念(6着)で先行策から粘ったようにマイルのスピードにも不安はなく、3番枠を利して上位争いに加わることも。ちなみに前回、2021年のデルマー開催では枠番3番までの馬が上位4頭に収まった。
地元のアメリカ勢も実力馬が顔をそろえたが、実績上位が欧州勢よりも軒並み外の枠になってしまった。最も期待できそうなのは9番枠のヨハネスで、今年は余力を感じさせる内容でG1を含む無傷の重賞4連勝と破竹の勢い。西海岸がベースで2走前にはデルマー競馬場でもG2勝ちと、地の利を含めて対抗可能な材料はある。
カールスパクラーも今季5戦4勝で重賞3連勝中と好調。BCマイルと好相性のフォースターデイヴハンデキャップ、クールモアターフマイルで直近2連勝と実績面では筆頭といえる。ただ、前走は逃げ切り、2走前も2番手からという先行脚質に大外枠は痛い。その2戦とも2着で連敗のモアザンルックスには、8番枠で逆転の目も出てきた。昨年のBCマイルでは12番枠から6着で、5着のソングライン(10番枠)とは3/4馬身差だった。
チリフラッグとカナダのウィンフォーザマネーにもG1勝ちがあるが、前者は牝馬限定戦、後者は8頭立ての6番人気と、G1未勝利のゴリアドを含めて北米勢では一枚落ちの感がある。2019年のユニはファーストレディSとBCマイルを連勝しており、同2着から臨むチリフラッグは、2番枠からの立ち回り次第でチャンスがあるかもしれない。
カナディアンS、E.P.テイラーSを連勝中のフルカウントフェリシア 【Photo by Getty Images】
【ブリーダーズカップフィリー&メアターフ】支配的傾向の欧州勢に傑出馬が不在、今年は北米勢にもチャンスあり
主導権をにぎるのは2走前のG2カナディアンS、前走のG1E.P.テイラーSを逃げ切りで連勝し、2番枠を引いたフルカウントフェリシアとなるだろう。2走前は引きつけて終盤ペースアップのオーソドックスな内容だったが、前走は大逃げで今回も対戦するモイラらを寄せつけなかった。ただ、1200mを1分11秒81というラップで通過しながら19馬身差の大逃げになったのは、後続が消極的すぎた影響も少なからずあったはず。I.オルティスJr.騎手とのコンビでは昨年暮れの重賞初制覇時に差し切りを決めており、今回は折り合い優先で行くかもしれない。
逃げ切りを許したモイラはライバルのフェヴローバーをマークしているうちに離されてしまった格好だが、そのライバルは捕らえて2着を確保している。昨年のBCフィリー&メアターフで3着、2022年にはカナダの年度代表馬にも選ばれた格上の存在で、フルカウントフェリシアに再び楽をさせることはないだろう。
枠順抽選後に主催者が発表した想定オッズで、モイラより評価が高いのは3頭。1番人気のウォーライクゴッデスは北米芝路線で牡馬にも引けを取らない実力があり、2年前のBCターフではレベルスロマンスの3着に善戦している。この馬に2000mはやや短いため、ここ2年は2400mのターフで牡馬と戦ってきたが、今年はデルマー競馬場でラヴズオンリーユーの3着に敗れた2021年のフィリー&メアターフより相手関係も軽そう。これで引退となる可能性も報道されており、ラストチャンスをものにしたいところだ。
2年前のBCターフで3着に善戦したウォーライクゴッデス 【Photo by Getty Images】
A.オブライエン厩舎も2頭出しの予定だったが、イランイランが枠順抽選後に取り消してコンテントのみとなった。近年は凱旋門賞とも関連が深いヨークシャーオークス勝ちの実績に加え、現在は米西海岸を拠点とするL.デットーリ騎手を起用とあれば、シンデレラズドリームに続く3番人気も納得。ただ、10月6日のオペラ賞から中1週続きで3戦目という強行軍は気になる。大きな着順で連敗したのは道悪の影響で、良馬場を期待できる今回は変わり身の余地があるものの、主戦のR.ムーア騎手はオペラ賞ともどもイランイランを選択していた。
ディディアは昨年10着からの雪辱を期す。当時は9番枠で後方に置かれ、最終コーナーから大外を回るロスが大きかったが、最後まで伸びて5着とは2馬身もなくゴールしている。G1ホースとなって迎える今年は枠順も6番に改善し、勝ち負けに絡む可能性もあるだろう。
アニセットは英国デビューで昨年からアメリカ西海岸に移籍。2戦目から前走まで重賞を8連戦し、デルマーオークスとアメリカンオークス、ゲイムリーSでG1レース3勝、デルマー競馬場でも4戦3勝など、全て3着以内と抜群の安定感を誇る。前走のジョンCメイビーSは伸び切れずに移籍後初の連逸を喫したが、それでもディディアには先着した。
外枠の3頭は南アフリカから移籍のビーチボムにアメリカでの実績が不足しており、サンセットグローリーは明らかに格下。ソプラノは愛G1メイトロンSの3着に光るものがあるが、前走のクイーンエリザベス2世チャレンジCは2着ながら6馬身差の完敗だったうえ、当時の1800mがキャリア最長距離だった。
(渡部浩明)
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