【秋華賞】春秋二冠チェルヴィニア「レジェンドホースに」、次走JC向けルメール騎手も太鼓判
3歳牝馬三冠の最終戦・秋華賞はチェルヴィニアが勝利、春のオークスに続く二冠を達成した 【Photo by Shuhei Okada】
チェルヴィニアには今回の勝利でJRA通算6戦4勝。重賞は2023年アルテミスステークス、24年オークスに続き3勝目。騎乗したルメール騎手は17年ディアドラ、18年アーモンドアイに続き秋華賞3勝目。管理する木村哲也調教師は同レース初勝利となった。
なお、1馬身3/4差の2着には後方から追い込んだ武豊騎手騎乗の5番人気ボンドガール(牝3=美浦・手塚厩舎)が入線。2番人気に支持された戸崎圭太騎手騎乗の桜花賞馬ステレンボッシュ(牝3=美浦・国枝厩舎)はさらに半馬身差の3着に敗れた。
不安視された京都の内回りコースもなんの!
右回り、小回りコースの京都でもスムーズに加速、馬群を割って一気に突き抜けた 【Photo by Shuhei Okada】
「嬉しいですね。秋華賞は3歳牝馬にとってすごく大事なレース。1番人気の馬に乗ったらいい結果を出したいですし、一番強い馬で勝つことができてすごく嬉しいです」
レース後の共同会見、ジャージ姿に着替えたルメール騎手は開口一番で大きな笑顔を輝かせながら喜びを語った。
春のオークス馬とはいえ、これまでチェルヴィニアが挙げた3勝はすべて関東圏の左回りでゆったりとした大きなコース。一方、唯一の大敗を喫したレースが関西への輸送がある右回りの阪神コースを舞台とした桜花賞だった。桜花賞は一頓挫を経ての休み明けという厳しい条件ではあったものの、それにしては13着と負けすぎていたために、もしチェルヴィニアの死角を探すとしたら再びの関西への輸送、そして京都内回りのトリッキーな2000mコースにあるのではないか――そうした見解もあったかと思う。
しかし、蓋を開けてみればなんてことはない、むしろ三冠レースで一番強い競馬を見せたのがこの秋華賞だった。
レース前からルメール騎手が感じていた勝利の予感
返し馬のフットワークを絶賛していたルメール騎手、この時点で勝利への予感をつかんでいた 【Photo by Shuhei Okada】
桜花賞馬ステレンボッシュがダッシュひと息だったのに対し、オークス馬はスムーズにゲートを発進。「スタートは1歩目、2歩目が良かったので、すぐに自分の好きなポジションを取ることができました」と馬群の中、ちょうど中団の位置を確保することができた。
ただ、レースは大外のセキトバイーストが果敢にハナを叩きに行って飛ばしたことで、前半1000mの通過が57秒1というハイペース。しかも2番手のクリスマスパレードとは約10馬身、さらにタガノエルピーダ以降の3番手グループとは15馬身差はあろうかという大逃げ、縦長の展開となっていた。
「前はペースが速かったですね。内回りだからちょっと心配しました(笑)」と心境を明かしたルメール騎手だったが、「でも、自分の馬のリズムをリスペクトしないといけない」。百戦錬磨の名手が焦ることは全くなかった。
「直線に向いてからも前の馬とは4、5馬身ほどありましたけど、チェルヴィニアの脚なら届くと思っていました」
その信頼の言葉通り、最後のコーナリングでも滑らかにスピードを加速させ、前方が開いたと見るや、その間隙を逃さず一気の末脚爆発。馬群を力強く割ったと思ったら、もう1馬身、2馬身と突き抜け、新馬戦、桜花賞で後塵を拝したライバル馬のボンドガール、ステレンボッシュを寄せ付けなかった。
「春からパワーアップしていましたね。4コーナーでペースが上がったときも彼女は楽に流れに乗れましたし、オークスではだんだんとした加速でしたが、今回は内回りでもすぐにギアアップしてくれました。完ぺき(笑)。十分な反応でした」
不本意だった春を経て、秋は本来の姿でレースに出したい
秋は本来の健康なチェルヴィニアでレースに出したい、その一心で調整を重ねていたと明かした木村調教師(左) 【Photo by Shuhei Okada】
「オークスを勝ってはいるのですが、春はチェルヴィニア本来のコンディションに持っていくことができなかった。だから、秋はこの馬の本来の健康体に整えてレースに出してあげなければいけないと思っていたんです。将来的にはノーザンファーム期待の繁殖牝馬になるでしょうし、そうした約束された未来を汚さないようにと思っていました」
また、チェルヴィニアの牝系をたどると、母チェッキーノ、祖母ハッピーパスはどちらも藤沢和雄元調教師が手掛けた牝馬。いわばチェルヴィニアは“藤沢ブランド”の直系でもあり、木村調教師は「藤沢厩舎の仕事がどれだけすごいかということを証明しなければいけない」と、偉大な先輩トレーナーが残した足跡に泥を塗りたくないという決意も秘めていた。
そうした、いくつもの強い思いが結実した秋華賞。パドックで見たチェルヴィニアの姿は「非常に元気が良くて、2018年にステルヴィオで初めてGIを勝たせていただいたのがここ京都でしたが、その当時にステルヴィオから感じたエネルギーが重なっていました」とも。木村調教師もルメール騎手同様、レース前からすでに勝利への確信めいたものを感じ取っていたのかもしれない。
次はジャパンカップ、強豪牡馬たちへ堂々の挑戦状
次走はジャパンカップを予定、年上の強豪牡馬を相手にどれだけの走りを見せてくれるのか期待しかない 【Photo by Shuhei Okada】
「桜花賞の後の立て直しということでオークスでもまだ万全ではありませんでした。今回は順調に調整できましたし、びっくりするくらい強かったですね。次はジャパンカップに行きたいです。今回強い競馬をしてくれたので、古馬に挑戦したいですね」
吉田代表は「チェルヴィニアはデビュー前から評判が良かった馬でした」と、早くから才女として期待を集めていたことも明かしてくれたのだが、それを裏付けるように木村調教師も「普段から本当にすごいなと思う馬なんです。まだまだ可能性がある馬で、今日も『やっぱり強いな』と思ったくらいですから」と、愛馬への賛辞は止まらない。
そして何より、世界一になった馬の背中を知るルメール騎手がチェルヴィニアの未来に大きな太鼓判を押している。
「何でもできる馬ですね。距離も持つし、能力もある。秋から大人になりましたし、古馬、牡馬でも問題ないと思います。僕はまだ何も決まっていませんが(笑)、もしジャパンカップに使うのなら斤量も軽くて、東京でもいい競馬をしているからどこでも行けると思います。ケガさえしなければまたGIを勝てる馬。レジェンドホースになることを期待しています」
11月24日(日)東京競馬場2400m芝のジャパンカップはドウデュース、オーギュストロダンの日英ダービー馬対決実現なるかと早くも注目が高まっている。その間に割り込み、もしかしたら主役を食ってしまうほどの魅力と可能性を持った3歳牝馬の登場で、ますます秋の府中2400m決戦は熱を帯びることになりそうだ。(取材:森永淳洋)
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