【物語りVol.105】WTB 岩渕 誠「その場所へ行けるチャンスが少しでもあるのなら、行きたい、勝負してみたい、という思いでした」

東芝ブレイブルーパス東京
チーム・協会

【東芝ブレイブルーパス東京】

東芝ブレイブルーパス東京では、多くの皆さまにクラブのことをより知っていただくために、今シーズンもライターの戸塚啓さんにご協力いただき、選手・スタッフ一人ひとりの「物語り」を発信しています。
※今シーズン新加入の選手の物語りを掲載していきます

【物語りVol.105】WTB 岩渕 誠

 岩渕誠の経歴は、何から何まで「異色」である。
 新潟県出身で、進学校として名高い県立新潟高校で学んだ。大学で学び続けることも可能だったが、防衛大学校を進路に選ぶ。
「そもそも自立したい気持ちがありまして、高校を卒業したら働こうと思っていました。ですが、せっかく新潟高校で勉強をして、頑張ってそれなりの成績を取っていたので、すぐに働くのはもったいないとも考えました。親に頼らずに自立しつつ、大学へ行くと考えたときに、防衛大学校を知りました。授業料がかからずに勉強ができて、学生手当をいただける。人の為になりたい自分の性格や進学に対する考えかたを踏まえて、一番いい選択だと判断しました」
 防衛大学校は陸上、海上、航空の各自衛隊の幹部候補官となるべき人材の教育訓練をつかさどる。国のために身を捧げる尊い仕事だが、危険が身近な職種でもある。
「母親にはすごく心配されて、色々と言われましたが、申し訳ないですけれど聞かなかったですね。自分で決めたことはやりきりたい、達成したい性分なので、自分で決めて、進んでいきました」
 防衛大学校では、全員が部活動に入る。高校までサッカーをやっていた岩渕は、「何か新しいスポーツをしよう」と考えた。走力に自信があったので陸上部に気持ちが向きつつも、ラグビー部の練習に参加した。
「ラグビー部の先輩方が熱心に勧誘してくれて、誘われるままグラウンドへ行ったら、すごく歓迎してくれたんです。何だかいい気持ちになって(笑)、入りますと」
 はっきりとした動機や決意とともに入部したわけではなくとも、岩渕の身体にはアスリートの血が流れている。すぐにラグビーに魅せられた。
「入部後に初めて練習試合を観て、その迫力に圧倒されました。身体を鍛えた逞しい男たちが、本気でぶつかって、本気で取り組んで、勝ったら涙を流して喜ぶ。そういう姿が、すごくカッコよくて。自分もあんなふうに活躍したい、と思いました」

【東芝ブレイブルーパス東京】

 防衛大学校ラグビー部は、関東大学ラグビーのリーグ戦グループ3部に所属する。チーム内では主力と言っていい働きを見せていた岩渕だが、国内最高峰のリーグワンはテレビで観る舞台である。そこに立つ自分を想像できなかったし、そもそも想像したことがなかった。それでも、ラグビーへの情熱が胸のなかでふつふつと燃え上がっている。
 ラグビーを続けることになれば、自衛官への道は諦めなければならない。自分はどうすればいいのか。岩渕は人生の岐路に立つ。自問自答の夜を何度も過ごし、納得できる答えに辿り着いた。
「4年間同じ釜の飯を食べた仲間たちは、自衛官になっていきます。仲間たちは国のために働くのに、自分だけがやりたいことをやっていいのか、というのはすごくありました。けれど、自分がリーグワンの試合に出ていることを仲間が知ってくれたら、『アイツも頑張っているな』という励みになるかもしれない。もっと言えば、僕を通して防衛大学校や自衛隊のことを知ってくれる人が増えたら、自衛隊に貢献できるかもしれない。そういうふうに考えて、自分のなかで納得したというか、腑に落ちたというか」
 進路を定めた岩渕は、大胆なアクションを起こす。
「防衛大学校を卒業してすぐに、自分の映像をまとめたデモテープをリーグワンのチームに送ろうと考えました。自己推薦のようなものです。東芝ブレイブルーパス東京に一番に送ったのは、防衛大学校でお世話になったS&Cの大石徹さんとの縁がきっかけです。大石さんは以前ブレイブルーパスでS&Cをやっていて、『すごくいいチームだよ』と聞いて興味を抱きました。僕自身もブレイブルーパスの試合を観ていて、面白いラグビーをすると感じていました。自衛官には勉強をして手順を踏んでいけばなれますが、リーグワンでラグビーをする、それもブレイブルーパスでプレーするというのは、ほんのひと握りの選手しか辿り着けません。その場所へ行けるチャンスが少しでもあるのなら、行きたい、勝負してみたい、という思いでした」
 映像を受け取った東芝ブレイブルーパス東京の薫田真広GMは、「ポテンシャルはある」と感じた。全国的にはまったく無名の人材でも斜めから見ず、その可能性を客観的に見定める東芝ブレイブルーパス東京のカルチャーが、岩渕の人生を動かしていく。練習生として2か月を過ごすと、23年度の新加入選手として発表されたのである。「グラウンドでスキル、性格、練習に取り組む姿勢を見て、社会人としての人間性などすべてを評価した」薫田GMは、「このチ―ムに必要」との評価を下したのだった。

【東芝ブレイブルーパス東京】

 晴れて東芝ブレイブルーパス東京の一員となったが、まだスタートラインに立ったに過ぎない。チーム内の競争においては、スタートラインのはるか後方にいる、と言ってもいいだろう。
「最初に練習に参加して、とんでもないところへ来てしまった、こんなに高いレベルでやっていかなければいけないのかと、驚かされました。自分がやってきたレベルとのギャップは大きかったです。その衝撃はいまも感じていて、毎日練習が終わると今日もできなかったな、と痛感させられます。ベーシックなスキルをとっても自分とは全然違いますし、まだまだホントに足りないものだらけです」
 だからといって恐れはない。もちろん、後悔もない。自分への物足りなさのすぐ後ろには、いつだって充実感が控えている。
「リーチ マイケルさんとかリッチー・モウンガさんと同じチームにいるなんて、1年前の僕からすればあり得ないわけです。テレビの向こう側の人たち、憧れだった人たちと一緒に練習をしている。それは、ものすごい充実感があります」
 バックボーンはまったく異なるとはいえ、日本代表もオールブラックスもチームメイトなのだ。憧れているままでは、肩を並べることはできない。追い越すこともできない。
 岩渕なりの使命もある。
「僕が頑張って有名になるほど、防衛大学校とか自衛隊の価値が上がっていくというか、いままで知らなかった人、ラグビーを頑張っている高校生とかに知ってもらえるのではないか、と思っています。そこに、自分がラグビーで頑張る価値があるのではと」
 岩渕が紡ぎ出す物語りは、防衛大学校在学時の仲間を、東芝ブレイブルーパス東京を、ラグビー界を、勇気づけていく。一度もあったことのないラガーマンさえも、きっと。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

【東芝ブレイブルーパス東京】

東芝ブレイブルーパス東京 試合情報

4/27(土)は因縁の府中ダービー、東京サントリーサンゴリアスと秩父宮ラグビー場にて対決します!
今シーズンは第2節でも対決しており、東芝ブレイブルーパス東京が勝利を収めました!
今季2度目の府中ダービーも勝利できるよう会場にて応援をお願いいたします!

【試合情報】
NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 第15節
東芝ブレイブルーパス東京 vs 東京サンゴリアス
日時:4/27(土)12:05キックオフ
会場:秩父宮ラグビー場(東京)

【東芝ブレイブルーパス東京】

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著者プロフィール

東芝ブレイブルーパス東京はジャパンラグビーリーグワン(Division1)に所属するラグビークラブです。日本代表のリーチマイケル選手や德永祥尭選手が在籍し日本ラグビーの強化に直接つなげることと同時に、東京都、府中市、調布市、三鷹市をホストエリアとして活動し、地域と共に歩み社会へ貢献し、日本ラグビーの更なる発展、価値向上に寄与して参ります。

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