デイン・コールズ(前篇)~「運命」でも「絆」でもなく、すべては「縁」~
マルコム・マークスとの関係
今季、クボタスピアーズに電撃加入したデイン・コールズ選手。彼にとって「マルコム・マークス」とはどのような存在なのか 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
オールブラックスが誇る世界的フッカー、デイン・コールズが引退をアナウンスしたのは今年2023年2月のことだ。現役最後の舞台はワールドカップフランス大会。その直前、8月にイギリスのトゥイッケナム・スタジアムで行われたニュージーランド代表と南アフリカ代表のテストマッチ。ここで先発出場したコールズの目の前には、相手側の「2番」、マルコム・マークスの姿があった。
「彼は世界のベストフッカーと言えると思います。本当にすばらしい選手です。その彼と戦うのも、これが最後になるかもしれない。そう思って、試合後にジャージーを交換しました。それほど私は彼のことをリスペクトしています」
そのマルコムが膝の負傷により戦線離脱を余儀なくされたのは、W杯開幕直後のことだ。多くのオレンジアーミーが、その報に肩を落としたことだろう。しかし、事態は急転直下。マルコム欠場の穴を埋めるべく、このたび日本にやってきたのが、テストマッチでジャージーを交換したばかりのコールズだった。
「因縁めいたものを感じる? 言われてみれば、そうかもしれませんね。マルコムの負傷は本当に残念なことで、私はW杯では彼と戦うことが叶いませんでした。しかし、これも『ラグビー』なのです。彼が怪我をしたことで、今、私はここにいるのですから」
なぜ引退を撤回してまで日本にきたのか
これまで培ってきたスキルや経験を次世代の選手たちの伝えるのも自分の使命だと考えるコールズ選手。グラウンドでも積極的に交流をはかる 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
「今回はダニエルがクボタスピアーズに対する熱量のようなものを伝えてくれて、私はW杯期間中のバイウィークの、4日間ほどで(日本行きを)決めました」
さらに、一度口にした引退を撤回するに至った大きな要因の一つには、昨季までクボタスピアーズに在籍し、当時まだ発展途上にあったチームに勝つための文化、ウィニングカルチャーを根付かせた、あの男の存在があった。
「クロッツ(ライアン・クロッティ)とも電話で話したのですが、彼がまず口にしたのがチームの雰囲気のことです。その言葉はポジティブなものばかりで、クボタスピアーズではとてもいい時間を過ごせたと言っていました。判断材料という部分で、彼が話していたことは私の中で大きなウエイトを占めています」
オールブラックスではコールズが2012年、クロッツが2013年に初キャップ。コールズのハリケーンズと、当時クロッツが所属していたクルセイダーズはライバル関係にあり、当初コールズはクロッツに対して好印象を抱けず「対戦相手としては嫌いだった」という。
「しかし、オールブラックスで一緒にプレーしていく中で、彼はすばらしい人間であることが分かりました。今、クボタスピアーズの選手たちと話していても、クロッツへのリスペクトをとても感じます。このチームに大きな影響を残した選手なのだと思います」
プレーヤーとしてはもちろん、これまでのキャリアの中で培ってきたスキルや経験を次世代の選手たちの伝えるのも自分の使命だとコールズは考える。それはまるで、2019年に勝者の哲学をもたらすために日本にやってきたクロッツのごとく。
「オープンブック。ここに私という本があり、それが開いている状態です。遠慮せず、何でも聞いてほしいです。また、私もすべてのことを分かっているわけではありません。日本の選手たちから、私が学ぶこともあると思います」
コールズの電撃加入は、たくさんのファンに愛されたクロッツからの最後の置き土産なのかもしれない。まさに、セラヴィ。これぞ人生、これもラグビー。
文:藤本かずまさ
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
次節12月24日、大阪・ヨドコウ桜スタジアムでの静岡ブルーレヴズ戦でついに先発出場。フラン・ルディケHCからの期待も厚い 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
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